鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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る。描法3と似るものは、狩野山楽筆とされるフリーア美術館所蔵「花鳥図屏風」左隻の樹木〔図4〕、狩野宗秀筆とされる大阪市立美術館蔵「花鳥図屏風」の桜〔図5〕などを挙げることができる。描法4のように幹に対して縦方向に筆線を付すものは法然院に伝わる「槇に海堂図」の樹木〔図6〕や龍安寺の「浄瓶踢倒図」〔図7〕などにも見られる。このような観察をもとに、描法と樹種の関係を確認した。たとえば描法1がつねに松に用いられるものであったように、特定の樹種に応じて用いられる描法があるかに注目したところ、今回観察した作品の中では、柳については画派を超えていずれにも縦方向の線が確認できた。また主に狩野派の作品に描かれる棕櫚には、幹に対して横方向の線が用いられている。一方、梅に関しては実に多様な表現が見られた。〔図8〕に取り上げた例は、いずれも狩野派に帰属する作品に描かれる梅であるが、一覧してみるとさまざまな描法が存在することがわかる。このように諸作品の様相をもふまえつつ、友松画の描法について見出されるのは次のようなことである。まず、描法1が松にのみ用いられていること、これは既に述べたとおり他の諸作品と通ずる描き方である。ただ友松画の特徴として、おおむね筆触を幹の左右端に集中させている点、それによって幹の内部に筆触をほとんど残さない箇所がある点が挙げられる。また描法4、すなわち幹に対して縦方向の筆線を付す描き方を柳を描く際に用いる点、これも他作品における柳の表現と通じる。他方、梅については画面の寸法や色料の有無に関わらず、いずれも描法2を用いて描かれている点が注目される。友松の学習元とも考えられている狩野派の作品では、さまざまな描法を用いて梅が表されていたのに対して、友松画においては梅の描き方に一貫性が見られる。ただこの描法2は、梅のみに用いられるものではなく樹種が判断しがたい多数の樹木にも用いられるものであり、いわば友松画に現れる樹木の大半に用いられる描き方でもある。幹のおもに両端に、樹木の屈曲に即しつつ横方向の筆線を付すこの描き方は、筆線を重ね置くことによって樹木の質感のみならず湾曲した幹の形態をも描き出そうとするようであり、ここには友松画における樹木の描き方、景物の形態表現の手法のひとつが捉えられると考える。2.岩の観察次に岩について観察をおこなった。友松筆とされる作品に描かれる岩は、丸みを帯びてやわらかく、「没骨」描によって描かれているものだとも評されてきた。一見して明瞭な筆線が少なくみえる岩だが、そのような岩がどのような配慮のもとに筆を配― 256 ―― 256 ―

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