鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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㉕ 福岡相互銀行本店と四島コレクションに関する研究研 究 者:北九州市立美術館 学芸員  落 合 朋 子はじめに磯崎新(1931-2022)の初期建築は、大分県医師会館(1960年)、岩田学園(1964年)、中山邸(1964年)、大分県立大分図書館(1966年)と、出身地の大分で実現している。その後、活躍の場を大分県外にも広げ、1970年代には群馬県立近代美術館(1974年)、北九州市立美術館(1974年)、神岡町役場(1978年)など、地方自治体の公共建築を次々と手がけるようになる。大分の初期建築群と、地方自治体の公共建築群の間に位置するのが、福岡相互銀行(注1)の建築群である。福岡相互銀行の専務であった四島司(1925-2015)は、顧客の岩田学園の岩田正より、磯崎を紹介され、福岡相互銀行大分支店(1967年)の設計を皮切りに、磯崎に支店、本店の設計を次々と依頼している。これまで福岡市の本店(1971年)や大分支店について紹介されることはあったが、その他の支店についてはあまり取りあげられることがなかった(注2)。それまで図書館、学校など用途の異なる建築を磯崎は手掛けているが、福岡相互銀行の仕事で、銀行という同じ用途の建築を短期間にまとめて手がけることとなり、ここでの試みは、1970年代に次々と公共建築を設計する中での大きな基盤になったと考える。また本店においては、応接室の装飾を現役のアーティストに依頼するなど、建築と美術の間を越境した磯崎ならではの試みが見受けられる。本稿ではまず磯崎が手がけた福岡相互銀行の建築群の全貌を確認する。次に本店の竣工時に設置された美術作品について取り上げる。最後に、磯崎の影響を受けて形成された四島コレクションについて取り上げることで、福岡相互銀行の仕事がその後の磯崎の活動にとって大きな基盤となったこと、そして建築のみならず美術など様々な分野を越境した磯崎の多彩な一面を確認したい。磯崎が関わった福岡相互銀行の建築群今回、建築雑誌に加えて福岡相互銀行が発行した『ホームぎんこう』、磯崎新アトリエ所蔵の写真資料などを調査したところ、八幡支店、新宿支店も磯崎が関与していたことが判明した。磯崎が関わった福岡相互銀行の建築群は本店、支店あわせて9件である〔表1〕。以下、各支店についてその特徴を確認していきたい。大分支店(1967年)は、大通りの交差点に位置し、25.3mの塔がランドマークとなっている。磯崎は、大分県立大分図書館で、内部をエメラルドグリーン、ピンクで― 264 ―― 264 ―

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