鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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彩っているが、大分支店では色彩がさらに徹底的に使用され、営業室と塔を結ぶ渡り廊下、踊り場のサーモンピンクをはじめ、応接セットの赤、白、紫、壁の黄色、モンロー曲線が用いられた椅子のコバルトブルーと、鮮やかな色彩で彩られている〔図1〕。磯崎は1966年に開催された「色彩と空間」展に大分支店の天井の模型である《建築空間(福岡相互銀行大分支店)》〔図2〕を出品しており、建築と美術の間を行き来しながら、大分支店が実現した。八幡支店(1968年)〔図3〕は磯崎が基本計画にたずさわり、その後は桜沢義信が手がけたようだ(注3)。1968年11月11日に新築開店したものの、1972年9月25日に八幡支店の隣の元住友銀行を新装して、移転開店しており、磯崎が基本計画にたずさわった八幡支店が使われたのは4年弱だったため、今日までほとんど取り上げられることがなかった。「磯崎新氏のユニークなデザイン、白とブルーを基調のソフトな感覚で鉄都の評判の建物となった。」(注4)、「「スモッグの多い八幡に青空を」というわけで空色とグリーンでカラフルな雰囲気と、新鮮な構造美をもった型破りなものです。」(注5)と紹介され、白鳥をイメージした外観に、階段やカウンターは、黄色、黄緑、緑、青のストライプで彩られている。大名支店(1969年)〔図4〕では、当初銀行のシンボルマークであるチューリップの図像を3階の高さに拡大し、ファサードの半分以上を埋めようとする案があったが、実現されず、大分支店と同じ√2の射影変換と称した作図方法が徹底的に使われている。鮮やかな色彩は階段の天井の青や、会議室の青いストライプなどに見られるものの、1階の営業室は白が基調となっている。六角鬼丈との共同設計である東京支店(1971年)〔図5〕は、12階建ての共同ビルの1、2階に位置する。ファサードを覆うアルミニウム板に銀行のキャッチフレーズのホームバンクのコンピューター文字home bankを切り抜き、文字の隙間が入口やショーウィンドーになっている。また階段の部分が「?マーク」の上部、エントランスの風よけ室の円形が「?マーク」の下部となっている。内部は白を基調とする中、モンロー曲線が取り入れられた椅子の青が印象的であり、博多を地元にする銀行の東京第一号の支店ということで、青色に博多の青い空を託したと磯崎は語っている(注6)。1階のショーウィンドーには新宮晋の《風にゆらぐ雲》が設置され、2階に向かい合う二つの部屋のドアは、マルセル・デュシャンの《フレッシュ・ウィドウ》を拡大したデザインとなっている。長住支店(1971年)〔図6〕では、1.2mの正方形が、床、壁、天井とあらゆるところに割り付けられている。鮮やかな色彩は姿を消し、内部は白からグレーまでのごく― 265 ―― 265 ―

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