鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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【光学調査結果の報告】[構図を変更した跡が発見された静物画]こと、制作を通じてしか到達されないものであったことが明らかになった。調査報告の順序は、構図に変更があったと考えられる作品を先にまとめた上で、完成年月日順とする。調査の手法は通常光での撮影(照明の位置を変えて複数撮影)、近赤外線による撮影(反射光、透過光)、蛍光撮影(紫外線励起光による撮影と、可視域内励起光により近赤外域での反応を記録する撮影)を行った。ただし、支持体がキャンバスではなく板であるもの、あるいは額装の裏板を外すことが不可能なものについては、光が裏面から透過しないため透過光による近赤外線撮影は行わなかった。調査日程や機材の都合により調査対象を絞る必要のあった蛍光X線分析については、先に行っていた《青布と林檎四個》に加え、岸田の晩年の作品であるため、日本では1920年代から流通していたとみられるチタニウムホワイト使用の可能性を検討する上で重要であった《ギヤマンのある静物》、同作と同日に調査したために計測機材が使用できた《冬瓜葡萄図》を対象とした。一連の調査を通じ、調査順序の重要性を痛感したことを付記する。作品に負担をかける光学調査を行う機会は限られることから、事前に調査手法を綿密に検討する必要があるが、一方で調査を行ってはじめて情報が得られ、次段階で必要となる調査の道筋が示唆されることもある。また画面全体の状態を様々な条件で調査する撮影調査を先に行い、それぞれの結果を検討した上で蛍光X線分析を行う対象地点を決定することで、より精度の高い調査結果が得られるが、実際には日程調整の都合で必ずしもその通りには進まないこともあった。今後への課題としたい。またこれらの作品の調査は、全て所蔵者・機関による多大なるご協力を得て可能となった。改めて感謝申し上げる。1.《静物(湯呑と茶碗と林檎三つ)》1917年8月31日、大阪中之島美術館蔵〔図1〕同作では、近赤外線撮影(透過光)によって、画面を二分するテーブルの線が現在より高い位置に描かれたとみられる跡、円筒形の湯呑の背後に描かれたとみられる三角形のモティーフを表す跡が見出された〔図2〕。また可視域内励起光を用いた蛍光撮影によって、三個の林檎の下に白く発光する箇所〔図3〕が見出された。4.《静物(白き花瓶と台皿と林檎四個)》1918年4月21日、福島県立美術館蔵〔図4〕同作では、近赤外線撮影(透過光)では画面左端に角を見せて描かれるテーブルが― 298 ―― 298 ―

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