鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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㊲ 北海道における仏教美術の基礎的研究─近世以前の作例を中心に─研 究 者:北海道立近代美術館 学芸員  熊 谷 麻 美本調査研究において筆者は、先行研究の整理を行い、北海道内に所在する近世以前の仏像(鉈彫り像を除く)および仏画の情報の集成を目指した。また、これまでに報告がなかった様似町・等澍院および上ノ国町・照光寺が所蔵する仏像、仏画を調査する機会を得たので、あわせて報告したい(注1)。1.先行研究の整理─東蝦夷地、西蝦夷地の作例に着目して─近世の北海道は、時期によってその領域に変化はあるものの、和人地、東蝦夷地、西蝦夷地の三区域に大別できる。多くの社寺が建立された和人地であった地域の作例はかねてよりその存在が知られてきた一方で、東蝦夷地、西蝦夷地であった地域の作例は注目される機会が少なかったが、先行研究で言及されてきた作例をまとめたのが〔表1〕である。〔表1〕は以下の手法によって作成した。(1) 6件の文献から、東蝦夷地、西蝦夷地に伝来する作例を抽出。明治期以降に制作された可能性がある作例は除外した。参照した文献は〔表1〕の欄外に記載した。(2) 所蔵先、作例を市町村別に配列した。北海道は一般的に「道央」「道北」「道南」「道東」の4地域に大別されるが、和人地と重なる「道南」は〔表1〕に含めていない。「道央」は「空知、石狩、後志、胆振、日高」、「道北」は「上川、留萌、宗谷」、「道東」は「オホーツク、十勝、釧路、根室」に細分したが、「道北・留萌」、「道東・根室」には該当する作例が無かった(注2)。(3) 「伝来区分」の欄は、須藤隆仙が『日本仏教の北限』で提起している「エゾ地に仏像が流入した事情」の三区分[1]仏僧によって奉安されたもの、[2]篤信者の外護で移入されたもの、[3]価値を認められて購入されてきたもの、に則って筆者が可能な範囲で判断、分類した(注3)。〔表1〕の作成にあたり主に参照した文献は、写真集としての趣向が強い森川不覚『北海道の古仏』、北海道内の宗教団体の由縁などをまとめた藤木義雄『開道百年記念北海道宗教大鑑』、仏像の伝来を含めて北海道内の仏教史を集成した須藤隆仙『日本仏教の北限』の3件である。いずれも北海道内の仏像、仏画を網羅的、体系的に取り上げることを目的とした文献ではないことに留意しなくてはいけないが、情報― 411 ―― 411 ―

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