鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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㊳ 日名子実三の《四魂像》に関する研究─四魂像組立原図と泰山製陶所との観点から─研 究 者:独立研究者  坂 口 英 伸はじめに本研究の考察対象である《四魂像》は、彫刻家の日名子実三(1892-1945)が制作した4体からなる彫刻で、宮崎県立平和台公園に所在の記念碑「平和の塔」(旧称《八あめつちのもとはしら紘之基柱》)の四隅に設置されており、昭和15年(1940)の作である。《四魂像》は陶彫で、施釉の陶片により構成されている。「平和の塔」の内部空間には、陶片が260片ほど残されており、これらは《四魂像》の破損等に備えるための予備のパーツとして制作され、完成作に使用されることなくそのまま内部空間で保管されてきたものだと推測される。本研究において陶片を調査した結果、陶片を製造した窯元の特定に至った。その窯元は筆者の仮説とは異なり、泰山製陶所ではなかったことが明らかとなった。また、日名子の遺族が所蔵する「四魂像組立原図」も調査した。同図は《四魂像》のいわば設計図に相当し、同図に従って陶片が接着されたと考えられる。これら残された資料を相互に参照しながら、《四魂像》に関するさまざまな不明点を解明したい。1 《四魂像》1-1 《四魂像》とは《四魂像》が設置されている《八紘之基柱》は、昭和15年(1940)の紀元二千六百年の奉祝記念事業として、紀元二千六百年宮崎県奉祝会が建築主として建造した記念碑で、相川勝六知事が日名子に設計を託した〔図1〕。日本最大規模を誇る36.4mのこの記念碑の四隅に設置されているのが《四魂像》で〔図2〕、〈荒魂像〉と〈和魂像〉は碑の表面に、〈幸魂像〉と〈奇魂像〉は碑の裏面にそれぞれ立つ。《四魂像》とは〈荒あらみたま魂像〉〈和にぎみたま魂像〉〈幸さちみたま魂像〉〈奇くしみたま魂像〉の総称で、4体をまとめて《四魂像》と呼ぶ。〈荒魂像〉〈和魂像〉〈奇魂像〉が男神で、〈幸魂像〉のみ女神である。神道的な考えでは、荒魂は神勇、和魂は神親、幸魂は神愛、奇魂は神智を意味し(注1)、《八紘之基柱》では〈荒魂像〉は勇ましい武神像、〈和魂像〉は商業と工業を司る商工神像、〈幸魂像〉は豊穣をもたらす農神像、〈奇魂像〉は漁業を担う漁神像として、それぞれ表象される。もともと4体すべて日名子の作だったが、現在の〈荒魂像〉は京都在住の彫刻家の― 422 ―― 422 ―

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