鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
439/712

2 陶片調査の概要2-1 調査に至る経緯と陶片の保存場所本調査の構想は10年以上前に遡る。これまでに筆者は、宮崎県の許可を得て、平成23年(2011)と平成27年(2015)に《八紘之基柱》の内部空間の調査を実施した。陶片の存在は最初の調査で確認したものの、当時の筆者は陶片が信楽焼だと思い込んでいたため、陶片の写真撮影と目視による簡単な調査を実施しただけであったが、このたびの研究助成金の獲得により本格的な調査の実施が可能となった。本調査の実施にあたり、宮崎県の土木課と教育委員会の許可を得た。調査期間は令和5年(2023)7月31日から同年8月4日までの5日間。これに先立って同年5月27日に下調査として陶片の現況を確認するとともに、調査方法を検討した。この事前調査の段階で、陶片の枚数が200枚以上あること、陶片は重いもので20kgを超過すること、積年の粉塵が付着した陶片には洗浄が不可欠なことなどが判明し、本調査では複数人での調査が必須であると実感した。本調査では作業補助者として2名を手配し、池田氏にも調査への参加を要請。同氏からは、関係資料の提供、陶片の釉薬の特定、陶片の制作方法などについて、専門的見地から助言を得た。陶片の保管場所である倉庫は、電気が不通であるため、照明器具としてランタンを点灯し〔図6〕、補助灯としてヘッドランプを頭部に装着して調査を行った。倉庫内部は温湿度が高く、熱中症対策として、ファン付きベストの着用、複数台のサーキュレータの稼働、休憩時間の確保、こまめな塩分と水分の補給などを実施し、調査の一部はウェアラブルカメラで動画として記録した。陶片が置かれる内部空間は、普段は施錠され立入禁止であるため、調査実施中は県が手配した警備員2名が扉の内外に配された。この内部空間の全体は、かつては「厳いつ室むろ」と呼ばれた(注8)。入口を入り右側の倉庫に陶片が、左側の倉庫に〈荒魂像〉の石膏像と八紘灯篭がそれぞれ保管される。ここに残された八紘灯篭も予備として制作されたものであろう。掲載した写真は、右側の倉庫内(約461cm×約215cm=約9.9㎡=約3坪)の俯瞰の3Dスキャン画像で、陶片の調査を終えた状態である〔図7〕。調査1日目は、午前中は調査前の記録と調査環境の確立(不要な残置物の移動等)にあて、午後に調査を開始。陶片の洗浄後に陶片の写真撮影を行い、もし時間に余裕がある場合、写真撮影後に陶片のサイズと重量の計測を実施するプランを立てた。午後から洗浄に着手し、陶片に付着した粉塵をブラシやダスターで落とし、表面を水拭2-2 調査の実施― 426 ―― 426 ―

元のページ  ../index.html#439

このブックを見る