鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
440/712

2-3 陶片の特徴きした。調査初日では全体の2/3の陶片の洗浄を終えた。残りの1/3の陶片の洗浄は次の日に回すことにした。調査2日目に池田氏が加わった。池田氏に《四魂像》と陶片を見ていただき、それらに関する見解を伺った(後述)。また、陶片の写真撮影も開始した。撮影は表、裏、側面(刻印がある場合)を撮影し、数字が書かれた置札、縦と横のメジャーも写りこむように心掛けた。加えて倉庫内の3Dスキャンを試験した。調査3日目に池田氏と筆者で別室(入口の左側に所在)に置かれた石膏像を調査した結果、この石膏像は上田貴久丸による作であるとの結論に至った。その後、陶片の釉薬の調査に移った。屋外の太陽光のもとで池田氏が持参した釉薬サンプルと陶片を比較し、陶片の釉薬が「伊い良ら保ぼ」であろうとの結論に達した〔図8〕(注9)。泰山製陶所で培われた釉薬の調合技術が貴生川陶業合資会社でも盛んに利活用されたと考えられる。調査4日目に倉庫内のすべての陶片の撮影を終えた。その結果、陶片が約260枚と頭部が1基であることが判明した。頭部は〈幸魂像〉のもので、頭髪と顔面の2部から構成される(取り外し可能)〔図9〕。調査最終日にあたる5日目は、サンプルとしてランダムに5枚の陶片を選び出し、メジャーで短辺と長辺を測り、体重計で重さを計測した。また、厳室全体の3Dスキャンを実施した。午後に調査初日で運び出した機材と〈幸魂像〉の頭部を倉庫内に移動し(原状復帰)、倉庫と前室を掃除して調査を終了した。陶片の形状は不定形で、そのサイズも不統一である。大きいものは一辺が50cmを超える。重量は軽いもので1kg前後、重いものでは20kgを超える。陶片の表面には釉薬が施され、無釉の陶片は見当たらなかった。裏面に施された窪みや穴は陶片の接着力の強化を目的に設けられたものである〔図10〕。池田氏の見解では、窪みに紐や針金などを通して心材と結び、穴にはセメントを詰めることで、陶片同士や陶片と心材との接着力が増す効果があるという。陶片の裏面や側面には書き込みや刻印がある〔図11〕。掲載の図版では「キ 三ノ四」と判読できる。池田氏によれば、書き込みと刻印は焼成前の生なま生き地じの段階で行われ、書き込みに用いられた釉薬は「紅殻」(酸化鉄を主成分とする赤色顔料の一種)であるという。これらは陶片の帰属と部位を特定する目的で施されたもので、書き込みの「和」は〈和魂像〉、「幸」は〈幸魂像〉、「ア」は〈荒魂像〉、〈キ〉は〈奇魂像〉― 427 ―― 427 ―

元のページ  ../index.html#440

このブックを見る