鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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に帰属する。現存する陶片の数としては、〈和魂像〉〈奇魂像〉〈幸魂像〉〈荒魂像〉の順に多かった印象である。また、釉薬ではなく、刻印で書き込まれた陶片もあった〔図12〕。掲載の写真では「和 七ノ十B」と読める。陶片の裏面の書き込みから考えて、陶片はすべて戦前に制作された可能性が高いと筆者は考えている。おそらく戦後の〈荒魂像〉の復元作の陶片は含まれてないと思われるが、速断は禁物である。慎重に調査を進めたい。現在、陶片をリスト化(陶片一覧の作成)を実施している最中である。3 四魂像組立原図3-1 四魂像組立原図とは《四魂像》の設計図に相当する四魂像組立原図。これは日名子の遺族が所蔵する。「四魂像組立原図」と墨書された封筒と、〈荒魂像〉〈和魂像〉〈奇魂像〉のトレーシングペーパー(計3枚)と〈荒魂像〉の青焼き(計1枚)の計4枚がそれである〔図13、14〕。〈幸魂像〉のトレーシングペーパーと青焼きは残されていない(散逸したと推察される)。池田家と新美家の所蔵資料に、四魂像組立原図やそれに関係する資料は含まれていないが、四魂像組立原図は、日名子ではなく、貴生川陶業が作成した可能性が高いと池田氏は指摘する。陶片に関わる部分は、彫刻家ではなく、製陶会社の領分(職掌)であるという。組立原図では、右から左にかけて各像の「正面」「右側面」「左側面」「背面」が描かれている。そして陶片が不定形に分割され、それぞれに数字、アルファベット、体の部位などが記されている。数字は足下を「一」として「一ノ一」「一ノ二」などと記され、頭部に行くにつれて数字は上がり(「二ノ五」「三ノ四」など)、首の下あたりの「九」が最大の数字である。アルファベットは数字の下位に属し、「七ノ八A」「七の八B」のように記される。体の部位では「首」「右腕」「左胸」などと書かれる。頭部に関しては、「頭」(荒魂像)と「首」(和魂像と奇魂像)という表記ゆれが確認される。組立原図の「首」と「頭部」は分割されていないが、倉庫内に残された〈幸魂像〉の頭部は、頭髪と顔面の2つのパーツに分割されており、組立原図と実際の作品との齟齬もみられる。これら組立原図に記された陶片を数えた結果、〈荒魂像〉は129片、〈和魂像〉は145片、〈奇魂像〉が214片となった。〈幸魂像〉は組立原図が不在のため、正確な枚数は不明である。逆に〈荒魂像〉の組立原図は残されているものの、日名子の原作が破壊されて失われたため、組立原図と原作との照合作業は不可能である。このような調査― 428 ―― 428 ―

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