鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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研 究 者: 中山道広重美術館 学芸係長 筑波大学大学院 人間総合科学学術院 博士後期課程  常 包 美 穂はじめに歌川広重(寛政9~安政5年(1797-1858))は、風景画の第一人者として19世紀前半に活躍した浮世絵師である。「保永堂版東海道」と通称される「東海道五拾三次」(天保4~7年(1833-36)頃、大判錦絵55枚揃)が代表作として知られるが、注目すべき画業は錦絵だけではない。仲田勝之助編校『浮世絵類考』には、鈴木南陵氏旧蔵『故法室本』(刊行年不詳)の記述として「童子が畫手本になるべき様の本多く出板し是又行れたり。(注1)」と、広重の絵手本制作が特筆されている。絵手本は、中国より舶来した画譜類を起源とし(注2)、一般的に絵師が主に門人のための教本として制作した版本を指す(注3)。浮世絵においては、文化11年(1814)より出版された、葛飾北斎(宝暦10~嘉永2年(1760-1849))による『北斎漫画』が最も知られており、多くの絵師に影響を与えた。名所絵や街道絵で知られる広重も、画技の円熟を迎えた嘉永年間(1848-54)に絵手本を制作している。しかし、広重の絵手本に関する研究は少なく、最も詳しい成果としては仲田勝之助氏による『絵本の研究』(美術出版社、1950年)が挙げられる。本稿は、広重絵手本の書誌的情報の整理および分析を中心とする。さらに、錦絵や肉筆画との関連性から、広重の画業における絵手本制作の意義を考察する。1 広重絵手本の書誌広重の絵手本として、見開きに複数の図様を収めた以下の絵本6冊の情報を整理する。『草筆画譜』初~三編 3冊『絵本手引草 初編』1冊『略画光琳風立斎百図 初編』1冊『浮世画譜 三編』1冊〔表1〕には丁の表裏ごとに図様の画題を分類し、その割合を示した。なお、本調査にあたり、太田記念美術館、川崎・砂子の里資料館、中山道広重美術館および筆者の所蔵する広重絵手本の熟覧ならびにオンライン公開されているデータベースの閲覧を行った。㊵ 歌川広重の絵手本に関する考察― 445 ―― 445 ―

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