④ ジョン・エヴァレット・ミレイと女性たち─その画業における女性たち─家族、友人、パトロン─の関わりと貢献─研 究 者:国立西洋美術館 特定研究員 浅 野 菜緒子1.はじめに2009年にテート・アーカイブに寄贈されたSir Geoffroy Millais Collection (以下G. M.コレクション)は、画家ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-96)および家族・知人たちの日常を活写する書簡を多数含み、ミレイと周辺の活動に関する一次資料として貴重である。同コレクションについては、画家の妻エフィーの半生の主要資料としてCooperにより網羅的な調査がなされたものの、それ以来本資料の詳細な調査は進んでいない。ここには1868年から96年にかけておよそ1000点(注1)にも及ぶ書簡や関連資料が含まれており、このうち当該調査では1868年から84年にかけての知人からエフィー宛の書簡(no.1-3)と1860年から96年にかけての子どもたちからミレイ夫妻に宛てた書簡(no.10-12)を調査した。本稿では、これらに基づき主にエフィー、娘たちとミレイとの関わり、その画業における彼女らの役割を確認する。2.先行研究、問題の所在ミレイ周辺の女性たちに関する研究は、グレイ家およびラスキン家の書簡に基づいたLutyensによる調査(1965年と1967年)を嚆矢とする。その後、1980年代以降Marshによるいわゆるラファエル前派姉妹団と称される女性たちの研究を端緒に、ラファエル前派の芸術的発展に寄与した女性たちの特定と活動の評価が徐々に進められ、これを背景に2000年から2010年代にかけエフィー再評価の動きが高まった。特にSmithやCooperらは、ミレイにラファエル前派からの離脱と商業画家への転換を促したファム・ファタルという従来のエフィー評を否定し、教養と野心を兼ね備え夫との協働に勤しんだ女性という新たな人物像を提示した。一方でこれら先行研究は、エフィーを除く他の女性たち─画家の実母や娘たち─については散発的な言及に留まり、その役割についての議論もモデルとしての活動が主であった。しかしながら、彼女たちのいわば名もなき活動がミレイの作家活動に少なからず関与し、影響を与えたことは一次資料の示唆するところであり、更なる追究は喫緊の課題である。3.妻エフィーエフィー・ミレイ(旧姓グレイ)が、精神面および実務面において画家の制作を支― 33 ―― 33 ―
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