㊷ 京阿蘭陀焼にみる意匠の展開研 究 者:神戸市立博物館 学芸員 中 山 創 太はじめに19世紀に京都を中心に製作された阿蘭陀写、いわゆる京阿蘭陀(注1)と呼ばれる作品群が存在する。これらは素焼きした器体に白化粧土を掛け、さらに藍絵で意匠を施して再度焼成したものである。意匠は花卉唐草文を基本とし、これに透視図法やハッチングによる陰影表現を用いた異国風景図、異国人物図などの西洋趣味的図様を採り入れる作品もみられる。一方で、そこに鳳凰、麒麟などの神獣や山水風景図などの中国趣味的図様を混在、あるいはそれらのみを採る作例も確認できる。これまで京阿蘭陀の作品群は、過去の展覧会等でも紹介されてきたが、絵付師の透視図法や陰影表現等の理解に差があること、生地の色味に違いがみられることなど、製作時期、製作地なども判然としていないのが現状である(注2)。意匠については、当時長崎貿易を通じて輸入されていたヨーロッパ製の銅板転写磁器や更紗などとの関連が指摘されているが、個々の作品について比較検証が十分に行われているとはいえない(注3)。京都の陶工・仁阿弥道八(1783-1855)との関連が示唆される「道八」、江戸浅草の陶工・井田吉六(1792-1861)の銘である「乾斎」、幕末から明治初年の陶工とされる「楽忠」といった陶工の銘がある作例や、器体に「いが」(伊賀か)の銘がある作例が確認されているが、個々の作品の製作地については明らかになっていない。いずれにしても、京都、及びその周辺で製作されていたと考えられている。京阿蘭陀には器体そのものに製作年が残る作品は確認されていないが、「藍絵花卉唐草文四段重」〔No.1、図1〕(注4)は文化13年(1816)、「阿蘭陀耳附御花生及び附同台」〔No.2、図2〕は天保3年(1832)、「藍絵異国風景図台付大鉢」〔No.3、図3〕は天保14年(1843)の年記が収納箱にあることから、基準作として挙げることができる。この3件を含めて、調査で実見できた京阿蘭陀の中から、本稿で採りあげる京阿蘭陀の作品を〔表1〕に示している。京阿蘭陀の作品と基準作との意匠の比較を中心に、その情報を整理することで、今後の京阿蘭陀研究の一助となることを目的としたい。1.花卉唐草文京阿蘭陀の意匠は、器体の地色となる藍絵を埋めつくすように花卉唐草文を配する点が特徴の一つといえる。ここに異国風景図、中国趣味的図様が混在する作例がある― 470 ―― 470 ―
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