ものの、花卉唐草文を配することを基本としているといってよい。基準作の中で最も早い年記、文化13年の墨書が収納箱にある「藍絵花卉唐草文四段重」は、器体を埋め尽くすように牡丹唐草文の意匠を蓋、各段重に配し、それぞれを積み重ねた時に、意匠がぴったりとあうような構成を採る。牡丹の花弁は満開や蕾の状態のものに描き分けられており、細かく点を置くことによって凹凸が表されている。本作例と同様の意匠を採るのが、神戸市立博物館蔵の「藍絵花卉唐草に異国風景図八角火入れ」〔No.4〕、「藍絵花卉唐草文盃台」〔No.5〕である(注5)。さらに、牡丹ではないがこれとよく似た花卉唐草文を採る作例に「藍絵花卉唐草に麒麟鳳凰文三段重」〔No.6、図4〕を挙げることができる。この三段重の花卉文は8枚の花弁、周囲に6枚の葉を配している。各段重の長辺短辺ともに側面は花卉唐草文で埋め尽くされ、縁の周囲には、南蛮唐草風の線文が巡らされている。なお底面は白化粧のみで、藍絵による意匠は施されていない。この三段重と類似した花卉唐草文を配するのが、「藍絵花卉唐草文八角形盃洗台及び盃洗」〔No.7〕である。2点を比較すると、花弁の形こそ異なるが、中央に点を置き、その周囲に線を連ねて蕊を描き出すことは共通している。なお、盃台の八面には切り抜かれた窓枠の縁、及び藍絵と白地の境目に南蛮唐草風の線文を確認できる。ただし、この3点は、花卉唐草文という点では共通するものの、葉の形態は花弁の周囲に配するもの(掌状複葉)、あるいは3つに枝分かれした葉(三出複葉)を採るものなど異なっている。また葉の葉脈をみても、線を連ねるもの、縁取りして白地を残すものなどの差異がみられる。同じく「藍絵花卉唐草文八角形盃洗台」〔No.8、図5〕は、先の盃洗台と同形ではあるが、4つの脚の長さが異なっている。器体には花卉唐草文を彩るが、牡丹に近い花卉文を配している。葉は三出複葉で、葉脈は周囲を藍絵で塗りつぶし、白く塗り残して表されているといってよい。さらに、「藍絵花卉唐草文三脚付植木鉢」〔No.9、図6〕の花卉唐草文は、渦巻き状の蕊を持つ5枚の花弁からなる花卉、3つ、あるいは5つに枝分かれした葉の形状を採る。植木鉢という用途からも見込み、底面、三脚の接地面は露体となっている。藍絵で花卉唐草文を口縁から肩と腰から底に配し、肩から腰にかけては異国風景図を採る「藍絵花卉唐草に異国風景図三脚付植木鉢」〔No.10、図7〕は、渦巻きのような蕊に5枚の花弁からなる花卉文、その周囲に4から5枚の葉(掌状複葉、葉脈は線描)を配している。「藍絵花卉唐草に異国風景図四脚付八角植木鉢」〔No.11〕は、八角形の鉢の各面に南蛮唐草風の線文で窓枠を設けて異国風景図、花卉文を交互に並べている。なお、方形の「藍絵花卉唐草に異国風景図植木鉢」〔No.12〕は、藍絵を基調として、白く抜いた唐草文を5枚の花弁からなる花卉文を配している。葉は三出複葉の形態で、葉脈は白く抜か― 471 ―― 471 ―
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