鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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れている。各面には窓枠を設けて、枠内に三角屋根や円筒状の建物がある異国風景図を描いている。なお、本来底面には4カ所に脚が付いていたと考えられる跡を確認できる。「藍絵花卉唐草に異国風景図刀掛」〔No.13、図8〕は、背板に配された異国風景図を除いて、器体の大部分に花卉唐草文を配する。その花卉は牡丹のような花卉の周囲に三出複葉を6カ所、6枚の花弁からなる花卉の周囲に5枚の葉を描いている。唐草の中にも、葉の裏側を捉えたような図様もみえ、複雑な構成となっているといえよう。本器のような異国趣味に富む刀掛は、江戸の料亭などの場で使用されていた可能性が指摘されている(注6)。「藍絵異国風景図木瓜形四脚台」〔No.14〕は、木瓜形の天板に異国風景図を採るものの、天板の縁や四脚には花卉唐草文が施されている。花卉文は中央の蕊を小さな円をいくつも並べ、その周囲に5枚の花弁、さらにそれぞれの間にも5枚の花弁を連ねている。唐草文上には3つ、あるいは5つに枝分かれした葉を散りばめている。「藍絵唐草文散蓮華」〔No.15〕の意匠は、藍絵で地を埋め、白く抜いた唐草文に三出複葉を配している。弦に捻じりが加えられている点も特徴として挙げることができる。なお、本器のような「散蓮華」は、天保6年(1835)の刊記がある『江戸流行料理大全』四編の「普茶卓子略式心得」(39丁裏)において、「散蓮華を湯たん匙すう」と呼ぶと紹介されている。刀掛と同様に宴席の場で使用されていたのかもしれない。ここまで文化13年の年記がある収納箱とともに伝わる「藍絵花卉唐草文四段重」を中心に、京阿蘭陀の花卉唐草文を考察してきた。この花卉唐草文の派生版ともいえる作例として、器体の天地に花卉唐草文、その間に異国風景図を採る水指〔No.16〕、首に設けた窓枠内に異国風景図を配し、その周囲に器体を埋め尽くすように花卉唐草文が配された鐶付の花生〔No.17、18〕などを挙げることができる。また、花卉唐草文の変形版ともいえる、瓢箪に唐草文を採る「藍絵瓢箪唐草に雨龍文四段重」〔No.19〕、「藍絵瓢箪唐草に金魚文盃洗」〔No.20〕などの作例も確認できる。なお、江戸の浅草で活躍した井田吉六と考えられる「乾斎」銘を有する盃洗2件、燭台についても、先述の作品群に連なる花卉唐草文を採っていると指摘できよう〔No.21、22、23〕(注7)。次に、天保3年の年記を有する「阿蘭陀耳附御花生及び附同台」をみると、花生台には、四段重と同様の花卉唐草文を採るが、花生のそれは口縁側面から肩、並びに腰下部にかけて6枚の花弁からなる花卉唐草文で周囲を飾っている。花弁は藍絵で彩色の濃淡に変化をつけたり、点描を連ねて陰影を表したりしているものの、それぞれ花卉文はほぼ同じ形状をしており、形式化がみられるといってよい。唐草は、これまで― 472 ―― 472 ―

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