鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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みてきたような白く抜いて表現するのではなく、地の藍絵よりも濃い色で曲線を描いている。葉は裏面から捉え、葉脈を白く抜いており、明らかに「藍絵花卉唐草文四段重」のそれとは差異がみられるとえいよう。この花生台の花卉唐草文に近しい作例として、「藍絵花卉唐草に異国風景図鉢」〔No.24〕、収納箱に「陶器師/楽忠」と墨書がある「藍絵花卉唐草に異国風景図盃洗、及盃洗台」〔No.25〕を挙げたい。(注8)一方で、天保14年(1843)の箱書きがある「藍絵異国風景図台付大鉢」の唐草文は、針葉樹のような、刺々しい形状の葉をしている。針葉樹の葉の形状で、渦を巻くような唐草文に連なる作例として、「阿蘭陀写西洋風景図硯蓋」〔No.26、図9〕を指摘できる。天板に異国風景図を採り、その周囲を花卉唐草文で埋めている。花卉は8枚の花弁からなり、蕊は小さな円をいくつも連ねて表現する。周囲には器体を埋め尽くすように渦を巻いた刺々しい葉が配されるが、ところどころに広葉樹の葉のような丸みを帯びた形状の葉もみて取れる。渦巻き状の葉を描く作例として「藍絵花卉唐草に異国風景図三脚付植木鉢」〔No.27、28〕も挙げることができる。No.25の花卉は5枚の花弁からなり、中央の蕊は点状に表されている。花弁の先端が藍絵で塗られ、白地から藍絵の変わり目にはドットを連ねて濃淡が凝らされている。渦巻き状の葉にも同様の趣向が施されているといってよい。花卉と渦巻状の葉とともに、藤の花のような房状の花卉文がみられる点も特徴の一つとして挙げることができる。やや他の作例に比べて、藍絵の色が薄く水色に近い色味となっている点も指摘できよう。なお、「いが」銘を有する「藍絵花卉唐草に帆船図皿」〔No.29〕は、藍絵で4枚の花弁からなる花卉文の周囲に渦巻き状の葉を描き、地色は白となっている。2.異国風景図次に京阿蘭陀の意匠のもう一つの特徴ともいえる異国風景図についてみていきたい。京阿蘭陀の異国風景図は、イギリス、オランダなどのヨーロッパ製の銅板転写磁器などを参考に製作されていたと考えられているが、典拠となる作例は確認されていない。いずれにしても、空間に奥行を持たせたものや、陰影を表す際にハッチングを意識したような表現を採るといった工夫がみられる。3件の基準作のうち、異国風景図を採る作品は「阿蘭陀耳附御花生及び附同台」、及び「藍絵西洋風景図台付大鉢」である。「藍絵花卉唐草文四段重」の年記よりも16年の開きがあるものの、期間を隔てることなく京阿蘭陀の意匠に異国風景図が採り入れられていったと推察される。京阿蘭陀にみられる異国風景図は、三角やドーム型の屋根を持つ建物、アーチ状の橋などの図様を用いて場面を構成する作例が多い。例えば、「阿蘭陀耳附御花生及び― 473 ―― 473 ―

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