鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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① 両次大戦間フランスのモダニズム言説における美術コレクターの役割について研 究 者:西南学院大学 国際文化学部 准教授  柳 沢 史 明序:1929年、カイユボット・コレクションを受け入れたルーブルの一室がホワイトキューブ的な空間へと改装されたことに代表されるように、20世紀初頭はミュゼオロジーの発展、美術品の一般公開、作品の鑑賞・保存に適した近代的な設備が模索された時代であった。その時代にあって、蒐集した美術作品を自邸に飾り秘匿的に作品を鑑賞するあり方は一見すると旧態依然とした芸術享受のあり方で、非民主的なものと思える。しかし、ホワイトキューブ的な展示空間を啓蒙的で民主的な近代の装置として表象し、それ以前のあり方を乗り越えられるべき旧様式と捉える見方はやや一面的かもしれない。本研究課題は、20世紀初頭、とりわけ両次大戦間の美術雑誌に登場する美術コレクター評、とりわけ画商・美術コレクターのポール・ギヨームをめぐる表象を中心に、公的な美術制度が整備されつつある時代にあって蒐集家の私的蒐集が備えていた文化的・歴史的意義を分析するものである。私的蒐集空間は、必ずしも前近代的な閉ざされた芸術の収蔵庫ではなく、近代的な芸術とその制度を逆照射する側面もあったのではないか、本報告論文ではその一端を提示したい。1:同時代美術擁護者P・ギヨームとその邸宅のコレクション両次大戦間、移り変わりの早い美術界の動向を鋭敏に捉える画商の存在は多くの関心を寄せていた。1927年の革新派美術雑誌『カイエ・ダール』誌は、毎号の付録feuilles volantesに画商へのインタビューを掲載し、慧眼な画商らの秘密を探る試みを行っている。インタビュー記事の第一号となったのはP・ギヨームであった(注1)。他の画商が肖像写真や肖像画で紹介されるのに対し、ギヨームは肖像写真に加え、「ポール・ギヨームのプライベート・コレクションの一部」と題された2枚の写真を伴っている〔図1、2〕。ギヨーム邸の内部はモダン・アートの作品をはじめ、アフリカやオセアニアの彫刻、革製の家具や直線的なフォルムのライトやテーブルといった調度品で彩られていることが記事で説明されるが、こうした紹介は彼が一人の画商であると同時に、多数の美術作品を有しそれを自邸に飾って楽しむコレクターであることを物語っている(注2)。― 501 ―― 501 ―2.2022年(2021年度助成)

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