② 田中信太郎の遺品資料に基づく作家研究基礎調査研 究 者:京都芸術大学大学院 客員教授 中 井 康 之はじめに本作家研究基礎調査は、2019年8月に亡くなった戦後日本を代表する彫刻家の一人である田中信太郎のアトリエに残された資料を整理することによって、1)戦後日本の美術活動に対する再検討、2)野外彫刻(モニュメント等を含む)と環境の問題、3)純粋美術と応用美術の関係性、以上3つの課題を考察検証するために資料として研究者が利用することを可能なアーカイヴとして整理し、その公開を目的として始めた。先ず実務的な作業として2020年8月に田中信太郎のアトリエに残された資料を共同研究者の三上豊と共に調査を実施し、上記した3つの課題に対して参考となると考えられる資料を中心に抽出し、本研究の代表者である筆者(中井)の勤務先、国立国際美術館に移送し、三上と同館にて分類作業を実施した。分類手法としては、先に掲げた3つの課題に対応するためにも、まず、資料全体の概観を把握し、また研究素材として有効に活用するためにも、形式的に分類作業を行った。大項目で分類すれば、紙媒体の資料として、1)作品図面、エスキース、ドローイング、作品制作のためのメモ(スケッチブック19冊、メモ帳13冊、他、2) 田中の著したエッセー、詩歌等の文筆作品(21件)、3)書簡類、名刺類、4)新聞、雑誌等である。また、紙媒体とは別にフィルム等による作品画像(紙焼きも含む)を、ポジ画像2,558点(8×10-1点、4×5-154点、ブローニー-474点、35mm-1,929点)、紙焼き281枚(モノクロ-175枚、カラー-106枚)を確認し、上記箇所に移送した。上記、紙資料に関しては、具体的な内容や記録された時期等、可能な限りその資料の特性を明らかにして記録し、将来的に索引が可能となるように準備を進めている。また、同時に電子化も進めたいと考えている。私はこれまでいくつかの田中信太郎に関する論文を著してきた(注1)。最初に著した田中信太郎論を「二人の田中信太郎」としたのは、田中信太郎の芸術に、造形作家としての立場と、デザインあるいはパブリック・アートを手掛ける局面を併せ持っていることを指摘したものであった。実は、本作業を始めた初期に、上記分類に照らせば3)に相当する書簡、田中信太郎に宛てた倉俣史朗による11枚にも及ぶ絵手紙を発見することとなった(注2)〔参考図版1、2〕。同資料の発見は、田中のもう一つの局面の再考を促す機縁と考えて、以下にその論考を記述していきたいと考えてい― 568 ―― 568 ―
元のページ ../index.html#581