Ⅱ.「美術に関する出版援助インターミディエイト」研究報告① スペイン黄金世紀美術研究─絵画と彫刻の親近性という観点から報 告 者:上智大学 外国語学部 教授 松 原 典 子● 本研究の概要スペイン黄金世紀美術に関する研究はすでに国内外で膨大な蓄積があるが、常にその対象の中心であり続けてきたのは絵画であった。他方で、彫刻、特に同時期の一般社会においてはその数や宗教的場面での重要性という点で絵画を圧倒する存在であった「彩色木彫」をめぐる研究は大きく後れをとっており、わが国では皆無に近い。そうした状況下にあって本研究は、「彩色木彫」というジャンルそのものと、画家と彫刻家が協働して制作にあたる「彩色木彫」の隆盛が生んだ絵画と彫刻の親近性、という2点を考察に当たっての主軸に据え、スペイン黄金世紀美術全体としての特異性に迫ろうとするものである。具体的な到達目標としては、①黄金世紀の画家、彫刻家の職業的慣行や社会的地位の実相を詳らかにし、同時期に画家の主導下で活発化した美術家の地位向上を目指す理論書の執筆と刊行、美術アカデミー創設運動の展開を跡づける、②近世以降の他のヨーロッパ地域には類例のない「彩色木彫」について、その伝統や系譜、隆盛の背景、画家と彫刻家の協働制作の実態といった多角的観点から包括的に論じる、③絵画と彫刻が、意識的または無意識的に相互の境界線を踏み越えた作例を個別に検討し、両者の濃密な接触や交渉、競合が黄金世紀美術に何をもたらしたのか考察する、という3つを掲げている。● 1年目の研究活動状況2023年度は、上記の目標到達を目指す3年の研究期間の1年目であり、以下のようなスケジュールを立てて臨んだ。1. 出版を予定している書籍(以下、本書と称す)のII章「黄金世紀における絵画と彫刻をめぐる言説と美術家の社会的地位」およびIII章「黄金世紀スペインの彩色木彫」執筆のための文献の精読と整理― 605 ―― 605 ―1.2022年度助成
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