鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
623/712

   申請段階では、ベルメーホ作品に関連するベルギー所在の北方の画家たちの作品も調査対象とする計画であった。しかし日本での予備調査が十分にできなかっ2. 本書IV章では、絵画と彫刻の境界線を跨ぐような美術的現象の例として、あるいは両者のせめぎあいを具現化したものとして、祭壇画のパネル(主に外パネル)に描かれる彫像を模した淡グリザイユ彩画と、聖週間に聖堂壁面や祭壇衝立を覆うための布絵に代表される淡グリザイユ彩画を取り上げたいと考えている。それに向けて、8月31日~9月7日の日程でイタリア、スペインに渡航し、以下の関連諸作品の視察・調査を行った。  ・ アクイ・テルメ大聖堂(イタリア)所蔵 バルトロメ・ベルメーホ作《モンセラの聖母三連祭壇画》(1485年頃、図1):外パネルに淡彩で彫刻的な「受胎告知」の場面が描かれた、スペイン人画家による祭壇画の代表的作例である。  ・ ジェノヴァ司教区美術館所蔵 <受難の布絵連作(14点)>(1538年~17世紀末、図2):ジェノヴァ郊外サン・ニコロ・デル・ボスケット修道院でかつて聖週間の際に聖堂に掛けられていたと考えられている。こうした目的で制作された布絵としては現存する稀少な作例で、本書ではスペイン、エル・エスピナールのサン・エウトロピオ聖堂で現在も聖週間に使用されている<受難の布絵(サルガ)>を扱うにあたっての参考作品としたい。エル・エスピナールの布絵自体は公開時期が限定されているため、機会を改めて調査を行う予定である。  ・ マドリード、ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵 ヤン・ファン・エイク作《受胎告知の二連祭壇画》(1433-35年頃):ファン・エイク自身の他の作品も含め、北方の祭壇画で多く描かれた彫像を模した淡彩画の中でも「だまし絵」的描写が際立つ作例で、上記ベルメーホ作品を考察する上での比較対象としてのみならず、「パラゴーネ」の文脈においても本書で取り上げる予定の作品である。  ・ マドリード、王室コレクション・ギャラリー所蔵 フランシスコ・デ・ゴヤ、ビセンテ・ロペスほかの画家による淡彩の布絵(サルガ)連作6点(1816年、図3・4):マドリード王宮の王妃の化粧部屋を飾るために宮廷画家たちによって制作された。黄金世紀の作品ではないが、世俗的な場のために描かれたサルガの珍しい作例で、淡彩画の意義について考える上で重要な作例である。― 608 ―― 608 ―

元のページ  ../index.html#623

このブックを見る