② 『イスラーム陶史』2023年度研究報告: 中国から西アジアに渡った青花(染付磁器)の「その後」:聖者廟内での財産管理についての一考察報 告 者:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 助教 Ⅰ はじめに『イスラーム陶史』執筆プロジェクト第二年度にあたる2023年度は、イラン(注1)、カタール(注2)、アメリカ(注3)、イギリス(注4)、および国内(注5)の美術館・建築物において、主にラスター彩技法及び釉下彩技法の用いられた陶器・タイルに関する基礎的調査を行うと同時に、関連するペルシア語一次史料の精読を行った。特に注目すべき成果として、イラン東北部ホラーサーン州マシュハドのイマーム・レザー廟博物館において、かつて同廟のハレム区域に設置されていた1215年製のラスター彩陶製ミフラーブの撮影に成功したことが挙げられる〔図1〕。さらに、昨年度に引き続き、研究成果を学術論文として出版し、学会等での研究報告を通じて発信を行った。特に、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(2024年1月刊行)に2022~2023年度の研究成果の一部を英文で寄稿したことは、顕著な成果といえる(注6)。また、イマーム・レザー廟イスラーム研究財団イスラーム美術研究部門にて、“(サファヴィー朝時代の美術:マシュハドと日本にあるコレクション)”と題したペルシア語の講演を行い、現地の研究者と中近世のイラン陶器について意見交換を行うことができたことも特筆すべき成果である。本稿では、これらの調査・研究活動から得られた成果のうち、一部について紹介する。Ⅱ 中国から西アジアに渡った青花(染付磁器)の「その後」西アジアは、遅くとも14世紀末までには、中国製の青花(染付磁器)の主要な輸出先となった。以下の3点がこの年代を導く証左となる。まず、元代の地理学者である汪大淵の記した『島夷誌略』(1349)の「天堂」(サウジアラビア西部のメッカに相当)の項目を見ると、同地における交易品として、「青白花器」が挙げられている(注7)。また、1396年にバグダード(イラク中部)で筆写されたフワージュ・キルマーニーの『五部作』写本の中の一葉である、ペルシアの王子フマーイと中国の王女フマーユー― 619 ―― 619 ―神 田 惟
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