鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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例えば、Seyller, John. 1997. “The Inspection and Valuation of Manuscripts in the Imperial このことは、シャイフ・サフィー廟に寄進された複数の陶磁器に対するインスペクションが、《青花葡萄唐草文輪花皿》の高台裏面にまとめて記載されている可能性を示唆しているかもしれない。なお、さまざまな経緯でイスタンブルのトプカプ宮殿にもたらされ、現在同宮殿博物館に保管・展示されている青花の中には、露胎の高台部分にインクでアラビア文字の書き込みがある作例が僅かに存在していることが知られている。書き込みの内容は、旧蔵者と見られる名前、容器の用途、購入歴・重量のほか、宮殿内の財産のインスペクションの際に付されたと見られる略語など、多岐に渡る(Erbahar, Nurdan. “Non-Chinese Marks and Inscriptions.” In ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■, vol. 1., London: Sotheby's Publications, 1986, pp. 125-138)。しかしながら、書き込みはいずれも短く、《青花葡萄唐草文輪花皿》のように寄進先における財産のインスペクションが行われた時期に関する情報を含む作例は知られていない。■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 1/2 (2008), 249-53.⒇ 出光美術館編『染付─世界に花咲く青のうつわ』、出光美術館、2019年、図版36《青花葡萄唐草文輪花皿》、図版50《青花葡萄文稜花皿》。図版33《青花花卉双鳥文輪花皿》についても、シャー・アッバース1世によって1611年にシャイフ・サフィー廟に寄進された作例である可能性がある。㉑ Ibid., p. 139. 出光美術館所蔵《青花葡萄唐草文輪花皿》ほかの実見調査については、2024年8月を予定してMughal Library.” ■■■■■■■■■■■■■ LVII (3-4): 243-350. このクルアーン写本は、クーフィー体という角張った書体で記されており、横長の獣皮紙に書かれている。その書体および素材・形状から判断して、この写本は9世紀から10世紀に制作されたと考えられる。特筆すべきは、クルアーン写本の最後のフォリオに、12イマーム・シーア派の初代イマームであり、661年に没したはずの「アリーがこれを書いた」という後補の署名が存在することである。このクルアーン写本がイマーム・レザー廟に寄進された1599年までには、イマーム・アリーがクーフィー体の発明者または完成者であるという言説がペルシア語の芸術理論書や芸術家列伝の記述を通じて流布していたことが確認できる。このことから、この後補の署名は、シャー・アッバース1世によるこのクルアーン写本のイマーム・レザー廟への寄進時までに、何者かによって意図的に付け加えられたものであると考えられる。いる。― 626 ―― 626 ―

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