ラ国立美術館だが、タイトルに関する対応は様々であり、統一はされていない。最後に作者については、まず、ロマン主義的芸術観で当然視されるような、ただ一人の作者という概念が成立しないジャンルや制作状況が多々あることが指摘された。工芸の場合は分業であるし、彫刻家の場合は下彫り工が存在する。工房作の問題も重大である。レンブラント・リサーチ・プロジェクトは、真筆作品の完全なリストを作ることが当初目的だったが、彼の工房が集団的な制作の場であったことが明らかになってきている。真筆作品、真筆から外された《黄金の兜の男》、AIが生成したnext Rembrandtを並べてみると、作者に関する知識が我々の作品に対する態度を左右することが良く分かる。作者に関する考察は、最終的には、贋作(faux)の問題につながる。ヴェルサイユ宮殿に納入された寝台ソファーが、18世紀の技法を用いて最近制作されたものであることが判明した。ほかにも、クラーナハ《ヴェールのヴィーナス》(リヒテンシュタイン・コレクション)は、現代の贋作者が16世紀と同様の顔料で制作した疑いが持たれている。だが、ヴェルサイユ宮殿に飾られているプラスチック製燭台―18世紀制作の燭台から型取りされて制作されたもの―は、果たしてこれらの作品よりも真正だと言ってよいのだろうか。「作者」「タイトル」「制作年」は必ずしも絶対的な情報ではない。また、これらを重要視する態度も絶対的なものではない。たとえば、17-18世紀にタブローを見る際には、芸術的な特性のみを考えるように説かれた。コピーはオリジナルと同様の目的を果たすものと見なされ、作者の同定は今日ほど重視されていなかった。これに対して現代では、上記三つの情報に加えて作品の来歴によって、我々は作品の芸術性よりも、歴史的な位置づけに注目するように誘導されている。これらの情報を形作る判断基準は、革新と独創性である。だが、このような態度が今後も有効であり続けるかは考える必要があるだろう。以上のように、美術史学の根本に関わる問題提起となる講演内容であった。実証的な研究で知られるミシェル氏がこのように率直な問いを投げかけることに、西洋美術史の当事者が、どのように21世紀に立ち会っているのか、目の当りにする感があった。日仏美術学会主催講演会は、2024年4月27日(土)に日仏会館大ホールで開催された。講演題目は「18世紀フランスの装飾を作り上げた芸術家たち」であり、逐次通訳を含め、約2時間半ご講演いただいた。展覧会という場における作品受容と比較しつつ、18世紀の絵画・彫刻は装飾と切り離して理解することは不可能であることが、豊― 633 ―― 633 ―
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