⑵ 海外派遣① カッパドキア、ケシュリック修道院アルハンゲル・ミハイル聖堂壁画修復に係る予備調査期 間:2023年6月15日~6月22日(8日間)派 遣 国:トルコ報 告 者:金沢大学 人間社会研究域 准教授 菅 原 裕 文ケシュリック修道院はトルコ、ネヴシェヒル県ユルギュップ市南方約15km、中世の街道沿いに位置する。同修道院アルハンゲル・ミハイル聖堂は南北に身廊を備える二連単廊式のプランを採用し、最初に開削された南礼拝堂はアプシスに残る銘文によりテオドロス1世ラスカリスの第6インディクティオ(1217/18年)にサムソンの子、修道士バルトロメウス、その弟レオが画家アルキゲオスに依頼して装飾されたこと知られている。現在カッパドキア全域で壁画が残存する聖堂だけでも358の聖堂が確認されているが、同聖堂のように年記から制作年代が知れる基準作例は僅かであり、13世紀のイスラム支配下のキリスト教コミュニティーの有り様を示す極めて貴重な作例である。本調査の目的は2024年度から始まる同聖堂修復に関わる事前調査の一環として、(1)修復前の状態を3Dモデルで保存すること、(2)グラフィティを選別することにある。6月16日8:00、定刻通りネヴシェヒル空港に到着して直ぐ、東京文化財研究所の前川佳文氏とネヴシェヒル市内にある国立ネヴシェヒル修復研究所長ハティジェ・テムル=ユルドゥス氏、次いでネヴシェヒル博物館長ギョクハン・マスカル氏を訪問し、予備調査に関して打ち合わせを行った。その後ユルギュップ博物館長セヴィム・トゥンチデミル氏と面談し、近隣の類似作例を参照させていただく日程の調整を行った。ネヴシェヒル文化社会局長レヴァント・アク氏は多用のため面会が叶わなかった。同日午後、イタリアとアンカラからの同僚がユルギュップに到着するのを待つ間に、一旦アルハンゲル・ミハイル聖堂の下見を行い、その足でムスタファパシャ村郊外のパンジャルルク・キリセ(10世紀初頭)、ペンテコステ聖堂(913~920年)を調査した。これらの作例は、カッパドキア研究を拓いたG・ドゥ・ジェルファニオンによる編年で言えば「アルカイック期(9世紀末~10世紀初頭)」にあたる。特に後者― 637 ―― 637 ―
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