鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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ティは膨大であり、その殆どが18世紀以降のものである。この点に関しては後段で改めて報告するものとする。6月21日9:00より前ネヴシェヒル博物館長、現ネブシェヒル県知事顧問ムラト・E・ギュリュヤズ氏と会談し、アルハンゲル・ミハイル聖堂修復事業に必要な資材・インフラについて議論した。9:30からは現ネブシェヒル県知事インジ・セゼール=ベジェル氏と面会が許され、ギュリュヤズ氏、先述のアク氏も交えて県知事に本事業への援助を陳情する機会を得た。その後、前川氏とともにネヴシェヒル県に残る13世紀のキリスト教岩窟聖堂群を視察した。12:30にタトラリン・キリセ、14:00にカルシュ・キリセを訪問し、先行する修復の事例を具に観察することができた。当初ユクセクリ・キリセの調査も予定していたが、今回は異例の大雨のため断念せざるを得なかった。というのも、同聖堂だけは公開のために整備されておらず、大雨の際に急斜面を登るのは危険だと判断されたためである。その後ネヴシェヒル空港経由でトルコを離れ、6月22日19:30に帰国した。本調査の目的である(1)3Dモデルの作成は概ね良好である〔図1〕。3Dモデル作成に有効な写真は2636枚であった。現在は1億200万画素を誇るFUJIFILM GFX100Sで撮影し、SfMソフトウェアはMetashapeを使用しているが、現在のコンピューターのスペックでは解像度を最低レベルに制限しなくては3Dモデルを制作できない。近い将来、コンピューター技術の進歩がこの問題を解決するだろう。とはいえ、素材となる写真の解像度は1億200万画素であるため、モデルの画質は申し分ない〔図2〕。作成した3Dモデルにおいてドーム頂部とナルテクス床面の一部が欠損しているものの、これらの部分は2023年9月に実施するカッパドキア調査で再度撮影して補うものとする。次いで(2)歴史的価値のあるグラフィティの選別について、いささか紙幅を割いて私見を述べたい。聖堂の規模という要素もあるだろうが、アルハンゲル・ミハイル聖堂の落書の数はカッパドキアでも類を見ない。20世紀初めにカッパドキア研究の基礎を築いたジェルファニオン神父は中世のグラフィティも集成しているが、同聖堂については一つも記録していない。また同学の友人であるウヤル教授も同聖堂についての論文を数編書いているが、彼もまたグラフィティについては一言も言及していない。同聖堂のグラフィティは管見の限り200~300を下らないと思われるが、その大半が(1)18世紀、(2)19世紀前半、(3)19世紀中葉と、他の聖堂とは異なり、中世ではなく近代になって書かれていることも同聖堂のグラフィティの特徴である。18世紀のグ― 639 ―― 639 ―

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