期 間:2024年3月21日〜3月22日(2日間)会 場:フランス、アルトワ大学報 告 者:関西大学 東西学術研究所 非常勤研究員 田 邉 めぐみ会議の概要:報告者が参加したシンポジウム■■■■■■は旧約聖書と新約聖書から交互に選択された人物、書物、場所、エピソードをテーマに据え、聖書とその文化、文学、芸術への影響を論じる場として年に一度開催されている。33回目を迎えた本年の主題は《ダヴィデとゴリアテ》であり、主催者であるJean-Marc Vercruysse教授(アルトワ大学文芸学部)の発表募集に応じた神学、文学、演劇、歴史学、哲学、政治学、映画、美術史学を専門とするフランス、ポルトガル、アメリカ、日本(報告者)の研究者が一堂に会することになった(注1)。後にイスラエル王となる幼きダヴィデがペリシテ人の巨人ゴリアテを倒す場面は、さまざまな次元の「善と悪の戦い」として各時代の政治・社会状況を大いに反映させてきた主題であるだけに、ヨーロッパで最多数のユダヤ人とイスラム教徒を抱えるともいわれるフランス国内において緊張感が高まる中で昨年秋には本シンポジウム開催地であるアラスでもテロ行為が起きる、という事態を企画当時には予想だにしていなかった主催者をはじめ、参加者全員が期待していた以上の成果に至れたように思う。それは何よりも、第1サムエル記第17章に基づく当該主題が、古代から現代までの様々な時代の異なる地域を対象として学際的に論じられたためだろう。宗教戦争時のプロテスタント系教会対カトリック教会、大航海時代のブラジル対ポルトガル、普仏戦争や第一次世界大戦下でのフランス対ドイツ、現代ではアイルランド対イギリスなど、「ダヴィデとゴリアテ」が歴史上さまざまな対立構造に重ね合わせられながらも、時代や地域を超えた奇妙な類似性を示していることが具体的な事例から開示されたのである。また、19世紀のフランス文学を専門とする者が多かったとはいえ、ヴィクトール・ユゴーの作品に散見する「弱き者の力」に光があてられたり、異なるジャンルのテクストに用いられている修辞法から「語り」の違いが明らかにされたり、児童書や人形劇の中では教訓的な機能を帯びるものとなるだけではなく、残酷な場面が忌避されるなど、読(観)者に応じて内容がいかに変容し得るのかが詳らかにされることにもなった。さらに、現代フランス語の精緻な翻訳を介したヘブライ語とギリシア語の― 671 ―― 671 ―② 国際シンポジウム Graphè2024: David et Goliath
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