鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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テクスト比較から異なる文化の様態が浮き彫りにされる一方で、映画作品を映画史はもとより「古代史劇ものpéplum」というジャンルの変化と併せて考えることから主題解釈の問題が示されたり、長いスパンで巨人(rephaïm)としてのゴリアテの系譜が辿られる一方で、著しい経済成長を遂げるアメリカで貧しい家に生まれながらも作家として大成したジャック・ロンドン(1876-1916)とその作品からゴリアテ対ダヴィデの社会的意味が解き明かされたりと、異なる視座や方法論から照らし出された主題の多様な側面を、参加者それぞれが自在に交差させながら学ぶことにもなった。当該主題がコーラン(2,251)にも言及されていながら、イスラム文化圏からの視座を学ぶ機会がなかったのは非常に残念だったが、シンポジウムのタイトルを「ダビデ対4ゴリアテ」ではなく「ダヴィデと4ゴリアテ」とした主催者の意に適った成果を参加者全員が共有できたように思う。報告者は現在まで様々な主題のもとにヨーロッパで実施された国際的・学際的シンポジウムで発表する機会を得てきたが、今回のように一貫したテーマのもとに30有余年にわたって規模を徐々に拡大しながら開催されてきたシンポジウムへの参加は初めてで運営面でも得るものが非常に大きかった。創始者であるJacques Sys教授の名が冠された講堂で開催されてきた本事業に毎年必ず参加する熱心な聴講者たちの存在や、会場内で展示・販売されていた既刊のシンポジウム発表論集などはその賜であるが、最大限の成果に至るためになされた様々な配慮は参考にすべきだろう。各発表者のメールアドレス一覧表や発表要旨、副次資料、参考文献表などが事前に配布され、主催者によるイントロダクションでは当該事業の成り立ちやシンポジウム全体の趣旨と共に、それぞれの発表の概要とその繋がりが示唆されたことによって、各発表後の活発な質疑応答が促されただけではなく、異なる時代・文化・分野間の相乗効果が数多く創出されることにもなったのである。また、各発表の前には司会者から発表者の経歴や学術活動の概要が紹介されたこともあって、休憩時間には美味しいお茶菓子を片手に和やかな雰囲気の中で聴衆と発表者が入り混じって様々な次元の交流が円滑に行われ、昼食や夕食時には発表者同士がさらに時間をかけて情報交換や関係を構築できるよう入念に準備されていた。さらに招待講演者のPhilippe MOLAC氏(Institut Protestant de Paris)が、異なる専門分野や世代の研究者への理解と支援を惜しまれず、報告者も非常に貴重なご教示を賜ったおかげで、ブルターニュ地方の諸機関の助力を得ながら研究を新たなフェーズへと向かわせることができつつある。その具体的な成果については、また別の機会に報告したい。― 672 ―― 672 ―

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