を述べ、彼がキュビスムの影響を経て、人々の動きや体験を重視した多面的な建築を実現したことを指摘した。そして、自身が建築家として改装を担当した京都市京セラ美術館もまた、バラバラな要素で構成されながら、体験し身体的に把握することで初めて全体を掴むことができるという点に、キュビスムとの関連性が見出されると述べた。このように、様々な形で現在にも繋がる同運動の豊かな成果を、多面的に議論する場として、本シンポジウムの意義が強調された。ブリジット・レアル氏による基調講演は、時差の関係でフランスからのライブ配信ではなく、事前に録画・編集し、邦訳字幕をつけた動画を上映することとなった。「キュビスムの道のり」と題された発表では、文字通りキュビスムが辿った道のりを追体験する場として構想されたこの度のキュビスム展の展示構成に沿って、パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックの孤独な冒険、彼らとは異なる道を進んだサロン・キュビスム、オルフィスムと同時主義、ピュトー・グループを代表するレイモン・デュシャン=ヴィヨンの彫刻と「メゾン・キュビスト」、「ラ・リュッシュ」とマルク・シャガール、そして最後にアフリカの彫刻群が端的に紹介された。レアル氏は、現代の眼でもって、中立的かつ批判的にキュビスムの道のりを辿り直し続けること、そして、複数の動向や相反するものまでをも包括するキュビスムの多義性を理解することを説いた。オンラインでのライブ配信に変更となったペペ・カーメル氏による基調講演もまた、レアル氏の発表と同様にキュビスム展の出品作品にできるだけ言及しながら、第1部「本質的キュビスム」、第2部「サロンのキュビスムとオルフィスム」の2部構成によって、タイトルにある「複数のキュビスム」について論じるものであった。第1部は、ダニエル=アンリ・カーンヴァイラーの画廊に属したキュビスムの中心的グループの画家たち─ピカソ、ブラック、フアン・グリス、フェルナン・レジェの4人と、サロン・キュビストではあるがレジェへの影響において重要視される初期のロベール・ドローネーに焦点が当てられた。とりわけカーメル氏が専門とするところのピカソとブラックによるキュビスムの発明と創造の軌跡については、「ピカソ、ブラックとプリミティヴィスム」、「セザンヌ主義からキュビスム、ブラックとピカソ 1908-10年」、「ピカソとブラック、1910-12年 創造的方法としての反復とヴァリエーション」の3章にわたり、数多くの図版を用いて詳細に説明され、その後「グリス」、「補説:初期のロベール・ドローネー」、「レジェ」の章が続いた。一方、サロン・キュビスムの画家たちを取り上げた第2部では、時系列に沿って論じられた第1部とは異なり、「グレーズ、メッツァンジェ」、「オルフィスム:ドローネー夫妻」、「キュビスム― 680 ―― 680 ―
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