鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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と運動」、「キュビスム:女性の視点」というグループやテーマ毎に章が分けられ、ピカソやブラックらからの影響とともに、彼ら独自の表現やキュビスムの展開における貢献について指摘された。講演終了後は活発な質疑応答がなされた。昼休憩を挟み、午後の部では、国内のキュビスムやピカソ並びに関連分野の研究者3名と、キュビスム展の担当学芸員2名が、各テーマの研究発表を行った。永井隆則氏は、「セザンヌの絵画における醜悪と野蛮」、「セザンヌの言葉の真の意味と後世代による創造的歪曲や改竄」、「視覚情報編集としてのセザンヌの絵画」という従来とは異なる3つの観点から、セザンヌの作品がキュビスムの誕生に果たした役割を改めて検証した。松井裕美氏は、「劇場(的な絵画空間)」と「現象学的ユートピア」という2つのキーワードをもとに、主にピカソとドローネーのキュビスム作品が、観者の視覚だけでなく多様な感覚を刺激し、さらにその感覚の発生のメカニズムについて内省を迫る性質を持つことを指摘した。河本真理氏は、「ピカソとバルカン戦争」、「第一次世界大戦時のフランスのキュビスム」、「大戦時のコラージュ/コンストラクションの拡張」、「日本におけるキュビスムのコラージュの受容と新たな戦争」という章立てで、戦争のコンテクストにおけるフランスのキュビスムのコラージュ/コンストラクション、およびそのトランスナショナルな受容について考察した。続く報告者の発表では、キュビスム研究にジェンダーの視点を導入する試みのひとつとして、展覧会出品作家の6人の女性芸術家たちの活動や作品に光を当て、京都市京セラ美術館の中山摩衣子氏の発表では、アンドレ・ロートと黒田重太郎、毛利眞美との関係を通して、日本におけるキュビスム受容やロートの評価の変遷について紹介した。全体討議では、まずオンラインで参加したカーメル氏から他の日本人発表者へ、後半では会場参加者から発表者へ質問をする場となり、活発な討議が行われた。レアル氏は機材トラブルにより残念ながら発言ができなかったが、発表者たちの間で交わされた新しい議論が非常に興味深いとコメントを寄せた。最後に、ピカソ芸術研究会代表の大髙保二郎氏が閉会挨拶を述べ、キュビスムの生成と拡張、そのイタリア・ルネサンスに匹敵するような「革命性」が、最新の研究を踏まえ、各発表者の多様な視点から具体的かつ実証的に明らかにされた本シンポジウムの学術的成果を強調し、その幕を閉じた。以上の通り、長時間に及んだ本シンポジウムは、キュビスム研究の今を反映した非常に充実した内容で、切り口や視点の多様性はもとより、対象とする作家や時代、地域の広がりも、キュビスムの今日的な検討やその歴史を語り直していくうえで重要で― 681 ―― 681 ―

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