鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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① 「ピカソ 神話の解体」の構築―歿後50年記念の節目に―期   間:2023年5月8日~5月17日報 告 者:早稲田大学 名誉教授  大 髙 保二郎2023年は1973年4月8日、パブロ・ピカソが南仏ムージャンの地で91歳と5カ月余の生涯を閉じてから50年という記念すべき節目の年にあたっている。ピカソが亡くなって、はや半世紀が経ったのか、そんな感慨を抱く方も少なくないだろう。ピカソを回顧するために2022年の後半、西仏両政府の主導により、「セレブレーション・ピカソ 1973-2023」の名の国際的な一大プロジェクトが世界各地の美術館や文化施設でスタートした。そこでは、ピカソの作品はもとよりその人間性や交友関係、また多岐にわたる芸術的な影響関係(ピカソへの、また逆にピカソからの)についても数多くの多彩な展覧会や企画展が準備され、実現してきている(その数は実に50件以上)。ピカソの生前、あるいはその死の直後には見えなかったピカソ芸術の全体像がこれを機に改めて問われようとしている。20世紀芸術を、さらには美術史を代表する表象芸術の巨人と言ってもいいピカソが我われに遺したものとは本当は何だったのか、彼の作品が突きつける今日的な意義とは何か、そのことを総合的に検証すべき重要な分水嶺を迎えていると言っても過言ではない。筆者は早稲田大学第一文学部に提出した卒業論文以来、ピカソおよびスペイン美術に関わってきた者だが、ピカソ作品と本格的に取り組んだのは1995年、第二次大戦の終結後半世紀を記念してのモノグラフィックな展覧会『ピカソ 愛と苦悩─《ゲルニカ》への道』(朝日新聞社、東武美術館、京都国立近代美術館共同主催)を故神吉敬三上智大学教授とともに共同監修者として参画して以来のことである。その後いくつかのピカソ関連の展覧会図録や出版物、論文やエッセイなどをとおしてピカソ芸術を、そのルーツや象徴性、イコノグラフィーといった視座から自分なりに解明してきたが、そこで痛感したのがピカソをめぐって語られてきた逸話や伝説の類の氾濫であった。その結果として、そうした言説が本来のコンテクストから離れて一人歩きをしてしまい、ピカソの真の人間性や彼の芸術の本質を見えにくくしてしまったのでは― 683 ―― 683 ―1.2023年度助成Ⅳ.「美術普及振興」研究報告

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