鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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注⑴ 拙論「ミラノ郊外で発見されたネーデルラント画家の壁画 ─ キアラヴァッレ修道院サン・ベ[フィレンツェ調査]堂(おそらく一族の埋葬聖堂)とサン・ピエトロ・マルティレ聖堂および後者を所轄するドメニコ会修道会と密接に関係していたことが知られるが、これから狭い地縁的な関係を保っていたことが確認できた。かつて個人蔵(アックアローネ)として知られていたジョヴァンニ・バディーレの手に帰せられた板絵《聖ペテロとアンドレアの召命》が寄託先から紛失して所在不明になっていることをセルジョ・マリネッリ名誉教授から知らされたのは残念である。報告者に関心のある15世紀のヴェローナ絵画への学術的関心は薄れており、新しい論文も出ていないようである。その意味でも既刊論稿の改稿と新規執筆論稿は後代に15世紀ヴェローナ絵画を伝える上で意義があると確信した。10月23日~27日のフィレンツェでは上述の精選論文集全体に関係する美術館および市内聖堂にある絵画の調査とドイツ美術史研究所での最近刊の文献渉猟をおこなった。特に、報告者がイタリア語で刊行したオリジナルとそのコピーに関する論文を改稿するために、一部であるがオリジナルの祭壇画およびそのコピーの実見と所在の確認をした。ウフィツィ美術館群館長アイケ・シュミットが、現在はウフィツィ美術館およびピッティ宮殿パラティーナ美術館の所蔵になっているが、トスカーナ大公国時代にフェルディナンド大公子が元来の設置場所(聖堂)から同時代画家のコピーと交換に宮殿に収めさせた絵画を元の設置場所に展示する活動(Il progetto Uffizi Diffusi)を開始した。その一つが、ピッティ宮殿王侯居住区画・パラティーナ美術館のラファエッロの《バルダッキーノの聖母》で、2023年10月1日まで、元の設置場所のペッシャ大聖堂にそのコピー作とともに並べ、 入場料を取って展示された(注4)。同祭壇画はフェルディナンド大公子によって接収される際にペッシャの住民から激しい非難と嘆願のあったいわく付きの作品である。個人的には、こうしたオリジナル祭壇画のほとんどが、無理やり売却あるいは剥奪(spolium)されたのであるから、本来の設置場所に恒久的に返還もしくは貸与されるのがあるべき文化的な施策であると考える。とにかく、シュミット館長の試みは、それに向けて一歩前進しているといえる。以上で、調査報告を締めくくる。― 692 ―― 692 ―

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