鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
78/712

丹を描いた作品となると、筆者の力不足もあるがさらに限られる。以下、まずは今回調査した孔寅の牡丹図について取り上げる。長山孔寅筆《牡丹図》〔図1〕(一幅 紙本着色 縦152.3×横93.0cm 制作年不詳 吹田市蔵)本図は江戸時代に大庄屋をつとめた中西家(大阪府吹田市岸部中)が旧蔵していた牡丹図であり、孔寅の牡丹図の例として他に類がない巨大さはまず特筆すべきである。年記がないため制作年は明らかでないが、款印は署名「孔寅」、印章「長山」(朱文円印)である。また、中西家とも親交があった広瀬旭荘(1807~1863)の賛を手がかりとすれば、天保10年(1839)までに描かれたものと考えらている(注5)。中西家にはこの《牡丹図》よりやや大きな《木蓮に孔雀図》(一幅 紙本着色 縦170.8×横99.0cm 制作年不詳)のほか、《漁夫図》(一幅 紙本着色 縦134.0×横60.2cm 制作年不詳)や群鶴図を描いた複数の襖等の孔寅作品が現存しており家と画人の深い交友関係を示すが、牡丹図はこの一図に限られる(注6)。本作でまず目を引くのは大輪の白い牡丹である。淡い稜線を描いた地面に立つ二株の牡丹のうち、左側の株の上部に二輪を描き、その一輪は10枚程度の純白の花弁を大きく開いて花芯を見せ、その黄色が作品のアクセントとなっている。右側にもう一輪を描いているが、こちらはまだ花弁が開ききっていない状態である。また、さらに右側には枝を天へ延びるように描き、画面全体の均衡を保つ重要な要素となっている。もう一株は枝を大きく左に湾曲させて黒い蕾をつけるが、これは黒に近い赤紫もしくは赤茶系の品種を墨で描いたようであり、花弁一枚がようやくほころびはじめたという様子である。白の花弁の周辺と花芯には輪郭線を繊細に用いるが、葉と黒い蕾は輪郭線を用いない付け立てという技法で淡い彩色を施し、柔和な印象をもつ作品である。葉の主脈には濃い緑の線を加え、また、枝は茶に墨、葉の近くは緑に濃い緑を足して陰影を表現している。長山孔寅筆《牡丹図》〔図2〕(一幅 絹本着色 縦102.3×横38.6cm 制作年不詳 個人蔵)一見すれば《牡丹図》(吹田市蔵)とよく似た異なる大きさの牡丹図である。上部に十分な余白をとるが本図では賛はない。やはり二株の牡丹を描くものの、本図では地面は描かれておらず、枝元は右下へ続く構図となっている。下方の枝が画面中央を通り、上部に花弁を大きく開いて花芯を見せる白い牡丹と蕾を描いている。花芯を見― 65 ―― 65 ―

元のページ  ../index.html#78

このブックを見る