㉒ 新版画における「朝鮮」の表象─エリザベス・キースと川瀬巴水の作例を中心に─研 究 者:東京富士美術館 学芸員 赤 須 清 美はじめに大正期から昭和前期にかけて、版元・渡邊庄三郎(1885-1962)を中心に展開された新版画運動では、錦絵の伝統的な分業を重んじる版元制度のもと、清新な作品の数々が世に送り出された。草創期に外国人画家が果たした役割や、同時代に開催された海外展示、海外コレクターの動向など、新版画の国際性に関する研究は、小山周子氏を筆頭として多角的な視点で展開されている(注 1 )。新版画は画題においても国際色豊かで、「異国」の地、すなわち画家の出生地以外の国や地域の風物を捉えた作品が数多くある。フリッツ・カペラリを嚆矢として新版画に参加した外国人画家は、西洋の視点からアジア各地の風物を描いており、吉田博などの日本人画家もまた、世界中を旅行し異郷の地を表した。しかしながら、朝鮮、満州、南洋群島など、当時「外地」と称され帝国日本の支配下に置かれたアジア諸地域が、どのように新版画に描かれたかという問題については、十分に検討されてきたとはいいがたい。とりわけ、明治43年(1910)以後日本の植民地支配下に置かれた朝鮮は、日本人画家と外国人画家の双方によって少なからず描かれている。従来、個人作家の研究の一環として朝鮮を描く作品が言及されることはあっても、朝鮮旅行が画家に刺激をもたらしたというように、一面的な文脈で記述されることがままある。しかし、そのような表層的な言説に甘んじるのであれば、作品に伏在するオリエンタリズムの視線や近代植民地主義のまなざしを見過ごすことになりかねない。本研究では上記のような問題意識を念頭に置き、朝鮮半島を描いた新版画を分析対象とする。画家の朝鮮訪問の経緯や時代背景を踏まえたうえで、新版画が日本統治時代の朝鮮をどのように表象したのかを明らかにしたい。なお、本稿では歴史性を考慮し、地名などを戦前の日本の表記に従っていることをあらかじめ断っておく。1 .対象作品の概要と傾向本研究ではまず、日本統治下の朝鮮を描いた新版画71点を対象に主題を分析し、全体の傾向を提示することを目指した。〔表 1 〕ではあらかじめ外国人画家による作品を A 群、日本人画家による作品を B 群に区分したうえで、制作年順に列挙した。その― 238 ―― 238 ―
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