ボストン美術館 日本美術総合調査図録 解説篇
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(1998))。この図録では、和英ともに記される作者名本美術調査図録』第1次調査(1997年)、第2次調査(2003年)、英語版としてJapanese Art in the Museum of Fine Arts, Boston I小袖(2002年)を長崎氏が、漆器類(2002年)を灰野昭郎氏が担当した。絵巻の調査は、依頼していた千野香織氏の急逝に伴い一旦白紙となったものの、2003年になって佐野みどり氏により再び着手された。 本プロジェクトは、当館の所蔵品に対しアクセスを容易にすることを当初から目指してきた。上記の各調査が完了した後、ボストン美術館と講談社は、版入り総作品目録を共同出版した(『ボストン美術館日や生没年、作品名などの情報が、今後の日本美術界において参照されるべき規範となるよう、入念な検討が重ねられた。その成果である作品情報やデジタル画像については、当館のウェブサイトでも閲覧が可能である(www.mfa.org)。講談社版の刊行による反響は大きく、館では日本美術の画像に関する掲載依頼が著しく増加した。これはすなわち、当初から目指していた作品へのアクセスの改善が、鹿島美術財団の資金援助によって実現したことを如実に示している。また、調査で得られた学術的知見は、『ボストン美術館 肉筆浮世絵』(全四巻、講談社、2000〜01年)や『國華』などで紹介されている。なお、各分野の調査完了後に当館に入った作品については本図録に収められていないが、ウェブサイトにて確認することができる。 以上の調査と出版により、当館の日本美術コレクションに対する知見が一層深まったことで、米国内や海外における展覧会を通じ所蔵品をさらに広く紹介することが可能となった。その例を挙げると、名古屋ボストン美術館にて開かれた「岡倉天心とボストン美術館」展(1999年)や、ロンドンのロイヤル・アカデミーにて開催された「The Dawn of the 巡回した「江戸の誘惑 ボストン美術館所蔵肉筆浮世絵」展(2006年)、東京国立博物館から始まった「ボストン美術館 日本美術の至宝」展(2012年)、東京藝術大学と共催した「ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」展(2015年)、そして当館で開催した「Takashi Murakami: Lineage of Eccentrics, A 第1期・第2期分の成果を盛り込み、和英併記の図Floating World」展(2001年)、神戸市立博物館より参照)。国境を越えた学界の場にて情報を発信し続け 鹿島美術財団により発案されたこの度の調査図録は、第1期・第2期のプロジェクトを反映した講談社版の改訂版であると同時に、第3期調査の成果を新たに盛り込んだ増補版でもある。鹿島美術財団の高橋司氏および皆川倫子氏による一貫した的確なリーダーシップ、また中央公論美術出版の鈴木拓士氏による卓越した編集のおかげで、こうして出版まで実を結ぶことができた。絵巻に関しては、髙岸輝氏と梅沢恵氏によって2019年に新たな悉皆調査が行われ、将来の美術史研究に大きく寄与しうる幕末明治期の絵巻模本が数多く見出された。さらに、プロジェクトの開始から20年以上が経過し、作者の伝記や生没年に関する研究や美術館での修復により得た知見が蓄積したことを踏まえ、当館の学芸員および調査担当者が髙岸氏と協議しつつ、全3期分の作品情報を一点ずつ見直す更新作業をおこなっている。この作業にあたっては、当館の石橋財団日本美術アシスタントキュレーター(2019〜21年)を務めた竹崎宏基氏の多大なる学術的貢献、そして当館日本美術学芸研究員の福永愛氏による編集補助があったことを特筆したい。 全3期分の館蔵品データを網羅した本図録の刊行は、作品への知的なアクセスを容易にするという、当館がこれまで取り組んできた活動の延長線上にある。鹿島プロジェクトによる調査および出版事業が、将来の研究活動の基盤となり続け、研究者の皆さんが我々のコレクションに対して今後さらなる知見を加えていただくことを願ってやまない。その際には是非、当館の学芸員にご連絡いただき、学術的成果の共有をお願いしたい(上記ウェブサイト所載の連絡先をることで、我々はボストン美術館の創設者たちが掲げた、「洋の東西を結ぶ架け橋として、コレクションを世界中の人々に提示する」という当初の理念を、さらに一歩前進させることができるのである。 末筆ながら、この画期的プロジェクトを可能にした鹿島美術財団、そして辻惟雄氏と故鹿島昭一氏が抱いた壮大な構想に対し、ボストン美術館より心からの謝意を表したい。 (訳:竹崎宏基)Collaboration with Nobuo Tsuji and the Museum of Fine Arts, Boston」展(2017年)などがある。4

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