ボストン美術館 日本美術総合調査図録 解説篇
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れた。小さなモノクロ図版によるカタログ・レゾネの制作という企画の主目的は、第1次調査図録(1997年)、第2次調査図録(2003年)を無事済ませ、第3次調査図録編集の段階になって遂に打ち切られた。モノクロ図版のみの学術出版ゆえ、売れ行きが思わしくなかったのが主な理由とはいえ、コレクションの花形ともいうべき絵巻物が予定されていただけに残念であり、この巻の編集責任者として待機していた佐野みどり氏に心からお詫びせねばならない。 以後19年を経過して、このたび、鹿島美術財団の再度に渡る援助と、東京大学髙岸輝教授を中心に結成された若い世代の新たな研究チームの努力により、懸案の第3次調査分の出版も含め、一般読者の鑑賞にも見合った体裁の新装版が出版の運びとなった。中央公論美術出版の熱意とあわせ、心から感謝したい。新装版には、新チームによる調査の成果が追加された。 浮世絵版画、絵本、工芸(蒔絵、印籠、根付)の一部など、調査未了の箇所はなお若干残る。第1次調査の折、アンさんと泉武夫氏が写真部の協力のもとに撮影した、「法華堂根本曼陀羅図」(「I 仏画」1番)の赤外線による多数の貴重な部分写真の出版など、懸案も残された。とはいえ、海外における日本美術の宝庫ともいうべき、ボストン美術館の収蔵品の全容が、これでほぼ明らかになったことを心から喜びたい。2022年1月辻 惟雄432

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