ボストン美術館 日本美術総合調査図録 解説篇
441/446

 ボストン美術館に所蔵される日本美術の総合調査は、鹿島美術財団および鹿島昭一理事長(当時)の深い理解と支援のもと、□惟雄先生とアン・ニシムラ・モース氏を中心として1991年に開始、日本美術史諸分野の専門家による悉皆的調査が進められ、すでに三十年を超えている。ここに、調査の全貌を示す『ボストン美術館日本美術総合調査図録』が刊行の運びとなった。 三期に分かれた調査のうち、第1次の成果は1997年、第2次は2003年に刊行され、各地の大学図書館や美術館に常備され活用されているものの、すでに絶版となっており入手がきわめて困難である。今回の調査図録は、第1次・第2次調査の成果に加え、第3次調査で明らかになった学術的知見を盛り込むことで、絵画・彫刻・工芸にわたる主要なジャンルを網羅するものに仕上がった。現在、美術館・博物館の館蔵品情報や写真の公開は紙媒体からウェブへと大きく軸足を移しており、ボストン美術館も利便性の高いウェブサイトを運用している。しかし、ページを物理的にめくりながら作品群を俯瞰的に把握できる点は紙媒体の大きな長所である。一方で、本書の図版はほとんどがモノクロであるが、ウェブサイトではカラー画像の増補が順次進められている。本書とウェブを併用するとともに、現地ボストンの展示室や国内で開催される同館所蔵品展において、作品そのものにアクセスされることも強く願っている。 第2次調査の成果が刊行されてから十年以上の中断を経て、本プロジェクトが再開されたのは2017年のことで、□先生の依頼を受け、私は専門とする絵巻の調査を行うことになった。中断の間も、鹿島理事長、□先生、モース氏は、調査の完遂と本書の刊行に対する情熱の火を絶やさなかったと聞く。再開後の2019年秋、未調査であった絵巻群を梅沢恵氏とともに現地調査できたことは幸運であった。2020年春に始まる新型コロナウィルス感染拡大の直前に、ボストンに滑り込むことができたからである。その後、毎月の編集会議は、ボストンの早朝と日本の深夜をオンラインで繋ぐ形で20回以上にわたって進められたが、これは予想以上に効率的で、コロナ状況下の新たな国際協働のあり方として貴重な経験となった。 本書の刊行にあたっては、これまでの調査を主導されてきた先生方に各分野の概要を新たに執筆いただき、個々の作品解説についても校正の労を取っていただいた。いずれも四半世紀ほど前に行われた大規模な国際調査の証言として、後進にとっても重要な指針となるはずである。2019〜21年にボスト433編集後記

元のページ  ../index.html#441

このブックを見る