ボストン美術館 日本美術総合調査図録 図版篇
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1272号)において分析するところである。漢から宋に 狩野素川章信は狩野松栄の系統を引く門人の家柄に出て、文化文政期、一世を風靡した狩野派の画家だが、性遊蕩を好んでつねに吉原に出入りし、越前屋の妓和国に馴染み、多くの遊女を弟子に採ったという。268番「見立普賢菩□図」は、このような章信の真骨頂を示して余りある優品である。言うまでもなく、大坂の江口にいたという遊女・江口の君の伝説によって描かれた一種の見立て絵である。金泥で入れられた隠し落款が、着物の秋草模様と紛らかすように入れられている。 以上の江戸狩野に対し、京狩野のコレクションも高い質をそなえている。現在ではむしろ奇想派の画家と見なされるほど強い個性を発揮する狩野山雪には、279番「十雪図屛風」と282番「老子・西王母図屛風」という傑作に加えて、285番「双鶏図」がある。とくに「十雪図屛風」は、北野良枝氏が論文「狩野山雪筆『十雪図屛風』の作画契機について」(『國華』至る雪にまつわる10の故事を元時代の詩人11人が詠んだのが十雪題詠で、元末の詞華集『皇元風雅』に収録されている。山雪と親しかった儒学者那波活所はこれをもとに「十雪詩」を詠んだが、これが山雪に霊感を与えたものと推定されている。山雪を継いだ狩野永納の289番「四季花鳥図屛風」は、いまだ山雪風を強く残す時代の傑作である。永納の家系を継ぎ、幕末期京狩野の画家として活躍した永岳に対する評価は、最近とくに高いものがあるが、その優作に297番「桜花流水図屛風」がある。 狩野探幽の系統を引く鶴沢探鯨に学んで、写実的にして装飾性のすぐれた独自の様式を拓き、円山応挙の師として知られる石田幽汀の317番「伊勢物語図屛風」は、保存状態良好なる優作である。『伊勢物語』第九段「東下り」を右隻に、第百六段「龍田河の紅葉」を左隻に選んで、夏と秋の一双屛風に仕立てた構成力はさすがである。 先にあげた久隅守景と並び称される英一蝶には、守景を凌駕する力作がある。325番「涅槃図」と327番「月次風俗図屛風」である。前者は、仏画にも才能を発揮した一蝶の真骨頂が示されている。伝統的図様によりながらも、生き生きとした動物の描写が興味深い。画裏面の銘により、正徳3年(1713)、一蝶が62歳にして描いた作品であることが知られる。幕末期には芝・青松寺塔頭の吟窓院にあり、江戸名物になっていたらしい。軸頭両端の唐獅子図彫り物は、一蝶と親しかった町彫りの創始者・横谷宗珉の手になるものだが、下絵は一蝶だったのだろう。この作品は、『國華』1373号に河野元昭により紹介され、2017年東京都美術館で開催された「ボストン美術館の至宝展」に里帰りして話題を集めた。後者は、都市風俗画に本領を発揮した一蝶の大画面屛風として知られ、早く小林忠『日本美術絵画全集16 守景/一蝶』(集英社、1978年)に、やまと絵的風俗画風による晩年期の典型的作品として紹介されるところである。本章には江戸狩野および京狩野を中心とする江戸時代の狩野派と関連する絵画(伝承作品を含む)を収録した。収録は奥絵師四家の中橋狩野家(1〜22番)・鍛冶橋狩野家(23〜80番)・木□町狩野家(81〜196番)・浜町狩野家(197〜212番)、駿河台狩野家(213〜240番)、その他江戸狩野家(241〜278番)、京狩野家(279〜307番)、鶴沢派(308〜324番)、英派(325〜348番)、その他(349〜428番)の順に配列した。それぞれの家系においてはおおむね活躍時期の順に従ったが、図版構成やレイアウトを優先させた箇所もある。This section includes paintings by members of the later Kano school, primarily of the Edo and Kyoto Kano branches who were active during the Edo period. Works bearing traditional attributions have also been listed. The entries are organized in the following order:Oku eshi paintings (works by the four Edo Kano sub-branches: Nakabashi, Kajibashi, Kobikichō, and Hamachō) Omote eshi paintings (works by followers of the four Edo Kano sub-branches: Surugadai and other Edo Kano artists) (Nos. 213−278)(Nos. 279−307)Kyoto Kano paintings (works by the Kyō Gano branch) (Nos. 308−348)Paintings by off-shoots of the Kano school: Tsuruzawa lineage and Hanabusa school (Nos. 349−428)Paintings by artists for whom biographical details are not clear Within each classification, the works are arranged according to the artists’ dates of activity. However, adjustments have been made to facilitate the layout of the text and illustrations.200[凡例][Explanatory Notes](Nos. 1−212)

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