ボストン美術館 日本美術総合調査図録 図版篇
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当(1729〜97)から、慶意広長(1760〜1814)、桂舟広隆Artの第十四章の住吉家の項で、住吉弘貫が全国の〜64)が欠けているのが惜しまれる。〜83)にいたるまで□っている。とくに安政度内裏造(1778〜1835)、その門人の守住貫魚(1809〜92)、鈴江継ぐ、1813〜79)までの土佐家代々による人物図、花ケ、2013年)を始めとして目覚ましく発展し、33番は鳥図、とりわけ「鶉図」、物語絵、山水図などである。門人の佐野龍雲(?〜1808)の作も1点ある。ただし、光芳を継いだ宗家の光淳(光貞兄、光時父、1734 品格の高い光起の8番「弁財天図」を始め佳品が多く、お家芸の「鶉図」などは光起画を基準に代々の作風を比較してみるのも一興であろう。16番の光成筆「定家詠十二ヶ月歌意図巻」は今回の調査の発見にかかるものである。1月から6月に相当する上巻が欠落しているものの、狩野探幽を始め、民間の尾形乾山など、17世紀中期から18世紀前半における同画題の流行を視野に入れるとき、宮廷画家による一例として意義深い。背景に水墨が用いられているのは、狩野探幽に学び、瀟洒淡泊な作風の特徴とする父光起に倣ったものと思われる。 土佐家から分かれ、徳川将軍家のお抱え絵師となった住吉家は支流の板谷家を合わせて24点ある。住吉家も土佐家と同様に系譜を視覚的に□れるサンプルのような蒐集である。2000年代以降、住吉家研究は下原美保編著『近世やまと絵再考』(ブリュッ下原氏によって住吉具慶(1631〜1705)の「徒然草図第百八十三段」であり、その下絵が斎宮歴史博物館に所蔵されているとことが明らかにされている。具慶に続く広保(1666〜1750)、広守(1705〜77)は欠いているが、広行(1755〜1811)以降は、広尚(1781〜1828)、弘貫(初名弘定、1793〜1863)、幕末・明治の広賢(1835営に参加した住吉弘貫の作画は38番から41番まで4点の作品が挙げられ、いずれも見所が多く充実している。フェノロサはEpochs of Chinese and Japanese 寺院を歴訪し、伝来する土佐家の古画学習に真□に取り組んだことなどにふれ、また自身がその養嗣子の広賢に師事していたことを明らかにしている。 住吉家門人については、住吉広行の門人で阿波徳島藩主蜂須賀家のお抱え絵師となった渡辺広輝貫中(1831〜68)ら徳島藩の絵師の作が目立っている。このうち、筆者が感銘を受けたのは、渡辺広輝筆の51番「源氏物語図(若紫・松風)」、53番の「同(空蝉)」で、基本的に白描技法により淡彩を加えて繊細優美に描いた源氏絵であるが、筆線本位の鎌倉〜室町時代のそれとは異なり、淡墨を面的に施した夜景や建物の屋根などの陰影表現が特徴的である。51番の箱書に「真墨絵」とあり、そのように呼ばれていた様式のようであるが、味わいとしては窪俊満ら寛政期の浮世絵に見られる「紅嫌い」あるいは「紫絵」の雰囲気をあり、同時代性が感じられて興味深く思われた。 住吉家支流の板谷家の調査研究の進展もまた著しく、「板谷家を中心とした江戸幕府御用絵師に関する総合的研究」(研究代表者田沢裕賀、2016年刊)がまとめられている。これを参照して改めてボストン美術館所蔵品を通覧すると、住吉広守門人で初代の慶舟広観測地のようなコレクションである。そのうち、49番の板谷弘延・広寿合筆「百鬼夜行図巻」と50番の板谷弘延筆「四季花鳥図屛風」が出色である。「百鬼夜行図巻」は鳥獣戯画、十二類草子、付喪神草子などの古絵巻を翻案した戯画巻。前半を弘延、後半をその兄の広寿が担当している。広寿は天保7年に21歳で夭逝しているので、貴重な遺品となる。 前半を担当した弘延は、兄の没後、広寿の養嗣子として奥御用絵師を継いだ。江戸城本丸や西丸の障壁画制作に従事し、晩年にはやオランダやイギリス国王に贈る屛風絵制作に腕を揮っている。この品格の高い50番「四季花鳥図屛風」は、大画面作家として力量を伝える見事な大作である。初めて屛風を開いたときの金銀彩色の眼も醒めるような輝き、あまりの保存状態の良好さにすっかり魅了された。解説に詳しくモティーフを書き出したように、春の桜に鳩・金鶏鳥から冬の雪被りの紅梅に雉子の番いにいたる四季花鳥の構成は堅実で、それぞれの描写も的確である。金雲を縁取るように蒔かれた金砂子が輝きを優しく整え、金泥の霞もなびく。表具には徳川家の三つ葵紋を刻んだ金具が取り付けられており、ビゲローが日本で購入したことから、大名の婚礼調度のような特別な目的で制作されたものと推測され(1786〜1831)、桂意広寿(1816〜36)、桂舟弘延(1820〜59)までがよく□い、系譜を□ることのできる定点299

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