ボストン美術館 日本美術総合調査図録 図版篇
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図(女舞であるという確証はない)」そして「おせん物狂(大津絵を含み、春画を除く)である。その解説編には、通刊行された『ボストン美術館肉筆浮世絵別巻 春画名品選』を参照してほしい)。春画を入れると最終的には六百点ほど314 ボストン美術館所蔵日本美術の第二次調査で、講談社版の報告図録に掲載した肉筆浮世絵は516点例であれば掲載しない、いわゆる贋作と思われる作品も掲載したので、文字通り悉皆調査報告書と捉えていただいてよい(春画については、2001年に講談社からになるが、その数は、肉筆浮世絵の所蔵数としては、おそらく世界一である。この分野で、アメリカでボストン美術館に次いで多いのが、北斎の肉筆画の多いことで知られるフリーア美術館であろう。その2館に匹敵する美術館はヨーロッパにはなく、日本でも、東京国立博物館、太田記念美術館、日本浮世絵博物館がボストンに準ずる規模の作品を所蔵しているにすぎない。簡単に言えば、ボストン美術館の肉筆浮世絵コレクションは世界一なのである。 数だけではない。その質も高く、2000年に、選択された作品が3冊の『ボストン美術館肉筆浮世絵』として講談社から刊行されるとともに、2006年に「ボストン美術館所蔵肉筆浮世絵展 江戸の誘惑」と題して日本の3つの美術館で展観され、多くの人が鑑賞したのは記憶に新しいと思う。ここでは、そのなかでも特記すべき分野と作品に言及し、その後に明らかになった事項・成果について述べてみたい。 最初に記すべきは、鈴木春信以前の初期の作品が全体の40%もあることである。とりわけ、黎明期に活躍した菱川師宣の作品が充実している。無款作品を含め調査班が師宣と比定した作品は5点あるが、なかでも41番「遊女道中図」(掛幅)、40番「江戸四季風俗図巻」、39番「変化画巻」(貞享2年[1685])、36番「中村座・吉原風俗図屛風」は特筆される。「遊女道中図」は師宣盛期の天和(1681〜84)頃の様式をも(1684〜88)期の様式をもつ四季風俗図巻の標準的作90番「遊楽図巻」、94番「吉原風俗図屛風」は特に禄7年(1694)閏5月22日に大和守邸で歌舞伎が演じつ唯一の掛軸であり、「江戸四季風俗図巻」は貞享例であり、「変化画巻」は類例のない、しかも年記のある作例であり、「中村座・吉原風俗図屛風」は歌舞伎と吉原を対にした唯一の屛風であるからである。 師宣様式を継承し、18世紀前半の肉筆浮世絵を主導した宮川長春の作品も10点所蔵している。そのなかで92番「女舞図」、87番「縁台美人図」(以上掛幅)、重要な作品であろう。そのいくつかの作品について、近年明らかになったことがあるので、それを述べてみたい。 平成25年に大和文華館で開催した特別展「宮川長春」の図録で、大田南畝『調布日記』に記されている宝永3年(1706)奉納の長春筆の絵馬「おせん物ぐるいに、三線ひく女と小女の絵」は、個人蔵「舞踊図」のような図様ではなかったかということを、ボストン美術館蔵の「女舞図」を根拠に述べたことがあるが、近年、もう1図類似の長春の作品が確認された。それは、「おせん物狂い図」(絹本着色横幅)と題され、隅田川畔浅茅ヶ原あたりに立つ女を描いた作品で、女の姿形はボストン美術館蔵品と全く同一なのである。片肌脱ぎの間着に記された「おせん」の文字も同一である。『松平大和守日記』によれば、元られ、「おせん物狂」が演じられた記録があることを勘案すると、隅田川物と推定されるその「おせん物狂」の狂言が、長春作の絵馬や「舞踊図」「女舞い図」に受け継がれていることは確かであろう。 また、94番の無款(長春)「吉原風俗図屛風」が菱川師宣の吉原風俗図に類似していることは以前より指摘されてきたが、この度、秋元子爵家旧蔵の無款浅野秀剛ボストン美術館の肉筆浮世絵

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