ボストン美術館 日本美術総合調査図録 図版篇
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 仏画(垂迹画・図像を含む)については1992年に2回にわたって調査を行った。調査者は泉武夫とアン・ニシムラ・モースの2名で、第1回目には須藤弘敏氏も加わった。総点数は260点。かねてより在外の日本美術コレクションとしては、この分野で最高の質を誇るといわれているが、日本所在であれば国宝指定が当然とみなされる作品が目白押しで、本プロジェクトの出だしということもあり、データ収集の精度と進行具合を勘案しながら進めていった。 まず1番「法華堂根本曼陀羅」は奈良時代八世紀に□る作品で、かつて東大寺伝来だがウィリアム・スタージス・ビゲローを介してボストン美術館の収蔵となったもの。当仏画コレクションの絶品である。調査時にも、唐代山水画の幽邃な表現を反映する背景描写を肉眼でかろうじて確認できたが、その後赤外線撮影ほかの光学的調査が美術館側で行われ、より図様がわかるようになったほか、素材は苧麻であることが判明し、絵具の分析も進んだ(ジャッキー・エ華会との関連性のほか、大般若会本尊説などが新たに提唱されている。 平安時代の作品は2番から11番までの10点。いずれも平安時代後期の制作で、ほかに21番もその可能性がある。日本仏教絵画の精華とされる平安仏画は絶対数が少なく、当コレクションにこれだけの数を擁するのは誇りといえる。アーネスト・フランシスコ・フェノロサの収集が大半を占め、図像はビゲロー収集になる。元の所蔵ははっきりしないものもあるが京都周辺寺院が多いようだ。なかでも3番「千手観音像」、4番「如意輪観音像」、5番「馬頭観音像」、6番「普賢延命像」の4作品は、優美な姿、多彩で温雅な色調、細緻な装飾など12世紀仏画の様式を最良のかたちで留めており、所蔵品中の白眉といってよい。5番は光背や台座の形式が神護寺本釈□如来像に酷似しているが、裱背には興聖寺什物の裏書があり、関連性がなお明確ではない。ちなみに2番「一字金輪像」には神護寺旧蔵の旨の裏書がある。7番「大威徳明王像」は、ビゲローが岡倉天心から没後に購入し美術館に寄贈した作品で、大画面である上、画趣が雄大で制作年代も11世紀に□る可能性がある。補絹補彩をさらに丁寧に判別することが求められる。の連れと思われるもの。9・10番は平安末期の良質な図像集で9番には寿永三年(1184)の年紀がある。証の所持本で、あるいは同じ玄証本の大型図像60番も平安に□る可能性がある。 鎌倉から南北朝時代にかけて、いわゆる中世前半の制作とみなされるのは12番から79番の68点(一との境目の位置付けは難しいところもあるが、いちおう目安として考えておいた。この中世前半の作品群が、質的評価および量的値が両立するという点で、当館仏画コレクションの中核をなしている。 まず注意されるのは、いわゆる南都仏画ないし南都寺社に関連する仏画に重要な作品が多いことである。明治以降、廃仏毀釈の動きが奈良周辺ではげしかったことと関係するのであろう。14・17・41・具は1点と数える)。その後の中世後半つまり室町時代奈良・平安時代の作品鎌倉・南北朝時代の作品泉 武夫ルガー、アン・ニシムラ・モース、リチャード・ニューマン「法華堂根本曼陀羅に関する科学的研究」東北大学文学研究科『美術史学』27号、2006年)。元来の用途についても東大寺法 8番「地獄草紙断簡」は奈良国立博物館本(旧原家)11番は平安末期から鎌倉にかけての図像研究家・玄45・46・48・49・51・52・53・77・78・79番など4ボストン美術館の仏画

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